三津五郎「武士の一分」トークショー

武士の一分

 JR東日本「大人の休日倶楽部」会員限定イベント“「武士の一分」トークショー”が行われ、大ヒット映画「武士の一分」で共演した坂東三津五郎と笹野高史が、撮影でのエピソードや自分の“一分”など、楽しい話を披露しました。

 山田監督からの出演依頼に少し戸惑ったという三津五郎。

三津五郎
 「この島田藤弥という男。原作では卑劣の上に卑劣を重ねたような男で、殺されても当然という役です。この役の話しがあったときに、悪役だから嫌というのではなくて、山田監督がこの役を自分のどこに見ていらっしゃるのかがよく掴めませんでした。なんでこれが僕なんですかって(笑)。

 その事を山田監督にうかがったところ、確かに悪役なんだけれど一目でわかる悪役にはしたくない。江戸住まいが長く、洗練されていて、あきらかに他の田舎のお侍とは違うエリート。現実に生々しい場面はありませんが、木村拓哉さん演じる三村新之丞の奥様を抱くシーンを想像しても嫌悪感を感じさせない色気がほしいんだとおっしゃるんです。ああ、そうなんだと…ただ、そういわれても随分考えましたね(笑)。

 映画の場合は、役者が快心の演技をしたと思っていても、編集でカットされている場合があります。映画では、監督が料理人、我々はできるだけその料理人にとって良い食材であるかということじゃないかと思うんです。」

笹野高史
 「監督の思っているイメージをこちらで探す。決まった正解を目指すというより、スタッフ全員でさらに良い正解を作っていく…本当に良い物を作り上げていく作業です。そこには自然と創意工夫も生まれます。

 本当は撮影が終わって、毎日がずっと後悔でした(笑)失敗したんじゃないかって。でも、見ていただいたお客様に喜んでいただいているようで、“ああ良かった”って、お客さんに助けられました。」


お二人の一分は---

三津五郎
 「“日本”にこだわりたい。日本の良さ、日本の文化をきっちりと良い形で伝えていきたい思っています。」

笹野高史
 「俳優として、決して出来ないと言わない事。冬の寒い中、死体で川に浮いてくださいとか。大変ですよ(笑)。でも、出来ないって絶対に言わない。物を作るのに出来ないって言ったら、失礼だし負けちゃったような気がするでしょ。」


映画と舞台の違いについて---

三津五郎
 「どちらも素敵で大好きです。舞台というのはライブですから、その日集まっていただいた方と役者だけでしか共有できない時間です。本当に“一期一会”。その瞬間を共有して終われば消えていく、心の中にしか残らないもの、舞台にはその良さがあります。

 映画というのは100年経っても同じ映像が残っていきます。“本番”という一瞬に僕ら役者だけでなく、照明・カメラその他多くの方々が精神を集中していく。どちらも緊張感があって素晴らしい瞬間ですが、そういう違いを感じます。」


7月の「ダンダンブエノ公演」について---

三津五郎
 「歌舞伎は25日間興行ですが、4日くらいの稽古ですぐ次の月の初日が開いちゃうんです。役者も、衣裳・大道具・小道具さんスタッフも毎月興行をしているプロだから出来る事で、これはこれですごい事なんですが、本当にせわしないというか…。

 反面、何もないところで皆で設計図をひきながら一からお芝居をつくっていく、そういう作業をしておかないと、役者の原点である想像力とか、色々なものがちょっとないがしろになっちゃうんじゃないかな、という気がするんです。例えて言うと…手編みのセーターを一生懸命皆で縫って一枚のものを作っているという感じで、とても良い経験をさせていただいています。」


これからの夢---

三津五郎
 「まずは、今月のお芝居を成功させること。来月は歌舞伎座「八月納涼大歌舞伎」。第二部では山本周五郎さんのお芝居「ゆうれい貸屋」に出演します。一つ一つの舞台にきっちりと心を込めて、お客さんに楽しんでいただく。それを続けていく事が一番の夢です。」

笹野高史
 「仕事にまつわることしかございませんが、島田正吾さんが言っておられたように、100才まで舞台を勤めたいなと思っています。」

 山田洋次監督の次回作「母べえ」(2008年新春第2弾全国ロードショー)でも共演する三津五郎さんと笹野高史さん。これからの活躍がますます楽しみです。

JR東日本「大人の休日倶楽部」

2007/07/13