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「名古屋平成中村座試演会」一度きりの舞台にかける思い

 6月14日(水)、名古屋城内二之丸広場 特設劇場「名古屋平成中村座試演会」が行われました。

 平成中村座恒例の試演会、今回は『壽曽我対面』が上演されました。演じたい役を抽選で決める試演会は、役にかける思いもひとしおです。上演後、「やっぱり難しくてなかなかできなかったのが悔しかったけれど、すごく勉強になりました」と工藤役の彌七が挨拶したのに続き、五郎で「花道でまったく音が聞こえなくなって動揺しましたが、落ちなくてよかった」と富彦。十郎は仲弥で、「これからの芝居の励みと自戒にして頑張ります」と意欲を見せました。

 

 「皆様のおかげで実力以上のものが出せました」(由蔵)、「師匠が後見、一生の思い出になりました」(扇十郎)、「出演が夢のようで幸せ。本公演も頑張りたい」(仲侍)、「せりふをしゃべるのは本当に難しい」(仲助)、「3回目の平成中村座で初めての試演会、これからも機会があればぜひ」(竹蝶)、「1回の公演ですが、本番の舞台がなにより勉強になると痛感いたしました」(彌風)、「すべての方々に感謝の気持ちしかありません。ありがとうございました」(彌紋)。全員がこの1回の公演に携わった俳優、裏方、そしてなによりご来場のお客様に深く感謝し、今後の精進を誓いました。

「名古屋平成中村座試演会」一度きりの舞台にかける思い

 「お楽しみ座談会」では、試演会出演者の師匠たちが、後見として舞台を支えていたことが明かされました。弟子が三人出演した彌十郎からは「まだドキドキしています。皆よく頑張りました。どうもよそのお弟子さんのほうが頑張っている気がして…」と本音もこぼれました。「お客様が(黒衣を気にして)出演者のほうを見なくなってしまうのではと、伏せておいたんです」と扇雀が言うと、「逆にやりにくかったのでは」と七之助、これには会場も大笑い。「初日から毎晩、稽古、今日はその集大成。1回では悔いが残るかもしれませんが、お客様の前でできるのはなによりいい経験」と勘九郎が続けました。

 

「名古屋平成中村座試演会」一度きりの舞台にかける思い

 今回の「名古屋平成中村座」公演の話も出ました。扇雀は『義経千本桜』の狐忠信というと、大阪の中座で十八世勘三郎が人形浄瑠璃のとおりに演じた公演(平成2年6月)を思い出すと言います。「狐の部分がいつもの倍くらいあるんです。その哲明さん(勘三郎)が休演されて…。何役も代役を探すことになり、僕も1役代わったんですが、代役だから鬘(かつら)が合わずにずれたりして大変でした。今月と同じ弁天小僧もあって、ああ、同じだな」と、平成中村座公演を先頭になって牽引した十八世勘三郎との思い出を語りました。

 

 勘九郎の『対面』の朝比奈は、「四代目勘三郎さんがつくった型で、それを平成中村座でできたのがうれしかった。父からもいつかやってくれと言われていましたし。隈もちょっといつもとは違ったものにしています」。七之助は『仇ゆめ』の深雪太夫を、十八世勘三郎が病で長期休養する直前の御園座で初演(平成22年11月)。「初めて父とがっぷり相手役をさせていただけることになり、緊張して心ここにあらずで、稽古でひどく怒鳴られました。千穐楽に、よかったよ、といわれたのが今も耳に残っています」と振り返り、これからもっともっといい作品にしていくと述べました。

 

 兄弟で『対面』の曽我の兄弟を勤めた梅枝は、「もっと何かあるかと思いましたが…」と、クールな反応。兄の発言が物足りないと思ったのか、萬太郎が「よかったんじゃないの?」と返すと、「二人とも初役で、けっこういっぱいいっぱいなので」、何かを感じる余裕がまだないと梅枝。「見ている側からは、花道から出てぱっと十郎が五郎を留めたときの空気とか、兄弟だなという気がしましたよ」との七之助のフォローには、ご覧になったお客様から賛同の大きな拍手が起こりました。

 

 地元名古屋の話題やオフタイムの過ごし方などの話もおおいに盛り上がり、最後に扇雀が、「俳優一同、一所懸命考えて普段の公演とはひと味違う、お客様が近い芝居をつくっておりますので、今後ともよろしくお願いいたします」と挨拶。勘九郎も、「名古屋は芸どころ、来年は御園座も建ちますので、ぜひぜひお足をお運びください」と呼びかけ、七之助の発声で一本締めにて、まだまだ熱気の残る名古屋平成中村座試演会の幕を下ろしました。

 

「名古屋平成中村座試演会」一度きりの舞台にかける思い

2017/06/15