富十郎が語る「矢車会」(2)

富十郎が語る「矢車会」(2)

 5月27日(水)歌舞伎座にて「五代目中村富十郎傘寿記念 第九回矢車会」が上演されます。歌舞伎美人では、公演の見どころや思い出などを、"富十郎が語る「矢車会」"として2回に分けてお伝えいたします。第2回目は、演目の見どころについてご紹介していただきます。

昼の部
『寿三番叟』
 紋付きの素踊りで、お祝いを兼ねて踊る三番叟です。中村歌昇さんと中村錦之助さんは、いとこ同士でもあるので、きっと息のあった踊りを披露してくれると思います。錦之助さんは僕が預かっていることもあり、「矢車会」最初の舞台を勤めていただけることを、とても嬉しく思っています。

『雪傾城』
 中村芝翫さんのお家に代々伝わっている踊りで、愛子(富十郎・長女)とご一緒していただきます。禿が雪だるまを転がしてきて、その中から傾城が出てくるという面白い踊りです。父としては、芝翫さんと踊りを教えてくださっている藤間勘祖先生に、ご指導をひたすらお願いしております(笑)。

『勧進帳』
 第一回「矢車会」でも弁慶を勤めました。その時は、十七代目中村勘三郎様が富樫、芝翫さんが義経を勤めてくださって大変嬉しかったですね。『勧進帳』は「矢車会」にとりましても記念すべき作品です。今回は富樫を吉右衛門さんが勤めてくださいます。吉右衛門さんとは何度も『勧進帳』でご一緒していますし、色々と判ってくださって僕のほうにちゃんと波長をあわせて下さるのでとても安心です。

 義経は鷹之資が勤めます。10歳の義経は歌舞伎史上最年少記録のようです。お能の『安宅』では義経は必ず子供でやるという決まりがあり、世阿弥の言葉ではないですが「子供は子供らしくのびのびやらせた方が良い」といわれているので、それを原則として10歳の少年らしくやってもらいたいと思っています。

夜の部
『寿競べ』
 箏曲の山勢松韻さんとは大変お親しくさせていただいていて、この『寿競べ』は夜の部の序幕にとても相応しい踊りだと思っています。歌舞伎では初めての上演になるのではないでしょうか。歌右衛門兄さんのご子息でいらっしゃる梅玉さんと魁春さんがお祝いとして踊ってくださるのも非常に嬉しいことです。

『お祭り』
 今回は二代目・尾上松緑兄さんの振りでと思っています。以前私の父の追善の際に今の團十郎さんとお亡くなりになった初代・辰之助さんとが踊ってくださいましたが、今回は染五郎さんと、辰之助さんの長男の松緑さんが勤めてくださいます。清元の延寿太夫さんも母方の親戚ということもあり、みなさん所縁の深い方々ばかりです。

『連獅子』
 以前、先代の勘三郎さんと今の勘三郎様(当時は勘九郎さん)とで親子で『連獅子』をお勤めになり大変話題になりましたが、そのとき僧を勤めたのが、僕と市川猿之助さんでした。それを勘三郎さんと橋之助さんがするのですから思い出がオーバーラップして参ります。今の勘三郎さんとは『連獅子』も随分ご一緒しましたが、初めてご一緒したのは、アメリカ公演で先代の勘三郎様の代役でのこと。本当に深いご縁を感じます。

 鷹之資は"一日だけの一発勝負"と少し緊張しているようですが、お行儀よくがんばってもらいたいと思っています。

 「矢車会」が今の歌舞伎座で行われるのは最後になります。その記念の公演にたくさんの方々にご出演いただきとても嬉しく思っています。また若い俳優の方々も多く出演するので、彼らの活躍も是非よく見ていただきたいと思っています。歌舞伎の伝承の一つの断面図として「矢車会」をご高覧いただき、この公演が、後の歌舞伎の発展に繋がり、歌舞伎がますます輝き続けることを心より願っております。

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2009/05/08