藤十郎 大阪松竹座 壽初春大歌舞伎『通し狂言 仮名手本忠臣蔵』の意気込み

藤十郎 大阪松竹座

 平成22年1月大阪松竹座では、壽初春大歌舞伎『通し狂言 仮名手本忠臣蔵』が上演されます。公演に先立ち、大星由良之助、高師直、早野勘平、戸無瀬を勤める坂田藤十郎が舞台への意気込みを語りました。

 天皇陛下御即位20年というお目出度い年に文化勲章をいただき、長い役者生活の中でも一番の思い出になることと思います。簡単な言い方になってしまいますが、「ありがたい、また頑張らないといけない」という言葉に気持ちが凝縮されています。そして来年の1月大阪松竹座 壽初春大歌舞伎で『仮名手本忠臣蔵』を上方の演出で勤めさせていただくという願っていもない機会に恵まれました。今は本当に嬉しい、頑張りたいという気持ちで一杯です。

 10月御園座、11月歌舞伎座と『仮名手本忠臣蔵』の上演が各地で続いておりますが、上方の演出は、丸本(義太夫節の一曲全部を収めた本)を主にしておりますから、きっと演出の違いを楽しんでいただけるのではないでしょうか。『仮名手本忠臣蔵』は、時代物があったり、世話物があったり、踊りがあったり、芝居として大変良くできています。さらに、今回は十段目(天川屋義平内の場)が上演され、我當さんが天川屋義平を勤められます。この場が上演されるのは、大阪での通し狂言では久しぶりですので、こちらも楽しんでいただけると思っています。

 上方の演出の特徴は、物語に登場する人間の本質がより深く表現されている事だと思います。以前は七役早替りで勤めさせていただいたこともありましたが、今回は四役を勤めます。江戸歌舞伎には真女方(女役しか演じない役者)といった言葉がありますが、上方ではそういう役者は少なくて、何でも演じるという意識が強いようです。ですから男役から女役に変わるという部分があっても、それほど抵抗は無く勤められます。また、今回は早替わりのない分、人物一人一人の気持ちの奥深いところに入ることができるので、それぞれの思いをさらに出せるのではないかと思っています。

 六段目の幕切れでは、切腹をしている勘平の後ろにお軽の着物を何気なく置いています。手前味噌ですが、お軽も勘平の死を彩るという気持ちを込めての演出です。何気ない事なのですが、おかやが勘平の着物を出すときによっぽどうまくやらないといけないんですよ(笑)。高師直のようなお役は勤める機会が少ないのですが、やはり最高の位の役ですから、いじめるだけではなく、品格をもって勤めなくてはいけません。由良之助は四役の中でも重要で一番大変なお役です。忠臣蔵はこの由良之助を含め一人一人が一生懸命に生きています。その一生懸命さが歌舞伎として上手くできればいいなと思っています。

 道行では息子の翫雀、扇雀と同じ舞台で戸無瀬を勤めます。一月の松竹座には孫の壱太郎も出演させていただいており、三代で『忠臣蔵』を勤めさせていただけることは本当にありがたいことだと思っています。これからは壱太郎も含めて、次の時代の人たちに大きな役をどんどんやってもらいたいと思うんです・・・といって、僕も今度のお芝居でたくさん勤めますから、「そんなこと言うなら、一つくらい役をよこせ」って言われてしまいそうで、言いにくいセリフなんですが、こればっかりは大目に見ていただきたいと思っています(笑)。

藤十郎 大阪松竹座

2009/12/04