菊五郎、團十郎 大阪松竹座「團菊祭五月大歌舞伎」への想い

菊五郎、團十郎 大阪松竹座「團菊祭五月大歌舞伎」への想い

 5月大阪松竹座では「團菊祭五月大歌舞伎」が上演されます。「團菊祭」とは、明治の劇聖と謳われた九代目市川團十郎と五代目尾上菊五郎の偉業を顕彰するために昭和11年に始まり、戦後は昭和33年に復活、近年の歌舞伎座では五月興行の恒例の催しとして上演されてきたものです。
 そして今年5月、江戸歌舞伎の伝統を継承する「團菊祭」が、初めて道頓堀の大阪松竹座にお目見得します。公演を前に、尾上菊五郎、市川團十郎が「團菊祭」への想いを語りました。

尾上菊五郎
 昼の部『勧進帳』では富樫左衛門、夜の部では河竹黙阿弥の代表的な江戸歌舞伎の一つ『髪結新三』の新三を勤めさせていただきます。大阪のお客様にはまだ「團菊祭」という名称は馴染みが薄いかもしれませんが、この興行が大盛況に終わり、2回目、3回目とお呼びいただきまして、大阪の地に根付くようになれば幸せですし、ご先祖も非常に喜ぶと思っています。

 明治20年4月26日、九代目團十郎、五代目菊五郎らが当時の外相井上馨邸に明治天皇をお迎えし『勧進帳』を上演された事により、歌舞伎の社会的地位が向上し、歌舞伎が近代化する大きなきっかけになったと言われています。そして平成19年4月、天覧歌舞伎から数えて120年を記念して天皇陛下をお招きし、私や当代團十郎さんらで『勧進帳』を勤めさせていただきました。『勧進帳』はそうしたとても思い入れのある狂言ですので、大阪松竹座での團菊祭の演目に選ばせていただきました。

 『髪結新三』は、まさに江戸っ子の芝居です。ちょうど5月で「カツオ、カツオ」の季節にも良いですし(笑)、江戸の風物を大阪のお客様にもお楽しみいただけるのではないでしょうか。新三の魅力は江戸弁の啖呵、姿かたちのカッコ良さです。確かに犯罪人ではありますが、紀尾井町のおじさん(二代目松緑)からも「犯罪人になっちゃダメだよ」と言われていました。源七と喧嘩してでも"いい顔役"になりたいと思う、まさに"江戸っ子のいい男"。それが大家さんにやり込められてしまって"ウーン"となるところがまた面白い。そうした男の色気というものが出せたら良いなと思っています。


市川團十郎
 大阪松竹座で「團菊祭」が上演されます事を大変ありがたく思っています。4月に歌舞伎座がさよなら公演を終え、5月から建て直しの期間に入る、歌舞伎にとって歴史的な月に、新しい第一歩として松竹座で「團菊祭」が執り行われる事は大変に意義のある事だと思っています。音羽屋さんのご先祖は上方という事もありますし、これを機会に「團菊祭」を関西の皆様方に広く認知していただき、歌舞伎が益々関西の地に根付くよう私どもも頑張らせていただきたいと思っています。そして、現在の歌舞伎の基をつくって下さった九代目團十郎、五代目菊五郎、それを我々曾孫が引き継ぎ、少しでも追いつきたいという心掛けで「團菊祭」を勤めさせていただきたいと思っています。

 『勧進帳』の弁慶は、若い頃から何度も勤めさせていただいております。居合い抜きに"鞘の内"というものがありますが、お互いに鞘の内で、富樫、弁慶の技量を、また義経の品格というものを分かり合いながら、それぞれの丁々発止の立場を貫く、そういうことができればと思っています。

 『髪結新三』では、弥太五郎源七を勤めます。締まらない親分なんです(笑)。新三と互いに"顔"を競い合うのですが、やり込められてグウの音も出ずに、すごすごと帰っていきます。源七のような人が新三にやり込められて、今度は新三が大家さんにやり込められるという、そういうところが面白いのではないでしょうか。

菊五郎、團十郎 大阪松竹座「團菊祭五月大歌舞伎」への想い

2010/03/31