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幸四郎が語る『不知火検校』『幻想神空海』

幸四郎が語る『不知火検校』

 4月2日(土)に初日を迎える歌舞伎座「四月大歌舞伎」で、昼の部『不知火検校(しらぬいけんぎょう)』、夜の部『幻想神空海』に出演する松本幸四郎が、公演への思いを語りました。

再演がありがたい

 幸四郎は『不知火検校』で、3年ぶり2度目の富の市後に二代目検校を勤めます。宇野信夫が十七世勘三郎にあてて書き下ろしたこの作品は、昭和35(1960)年2月歌舞伎座で初演、幸四郎は按摩正の市で出演しています。「そのときはのちに主演して、しかも再演させていただくとは夢にも思わなかった」と、幸四郎。再演を重ねるなかにも新鮮味が出てくるのが歌舞伎劇の魅力で、「再演はもっと評価されていいのでは」と語りました。

 

突破口を求めて生まれた悪の芝居

 検校は日常ではありえない悪事を働き、冷徹なせりふを連ねます。「芝居だから言える、芝居だからありうること。歌舞伎劇って本当にシュールな演劇です」。初めは勧善懲悪だった歌舞伎に、つくる側も見る側もそれだけでは満足しなくなって、一筋縄ではいかない芝居が生まれてきたと、幸四郎は言います。「行き詰まったところを突き抜けようともがき、身も心も模索するなかから、『不知火検校』という歌舞伎劇が生まれてきた気がします」。

 

 歌舞伎が写実性によって進化し、さらに心理描写が加えられてきたという歴史をふまえ、「『不知火検校』は心理描写歌舞伎と呼べるでしょう。芝居としても面白く、かつ歌舞伎劇として面白い」と、幸四郎は作品の魅力を分析。作者宇野信夫の功績であり、それまでの歌舞伎とは何かひと味違うと語りました。「宇野先生はフランス映画、フィルムノワールが大好きで、先生の作品にはフランス映画のようなところがあります」。当時は皆が自分なりに工夫し、面白くしようという気持ちでやっていらした、だから、現代の我々もそういう心意気で臨みたいと意欲を見せました。

 

歌舞伎座「四月大歌舞伎」『不知火検校』

運を背負って悪人をまっとうする

 正義の味方が最後にすべてを解決、果たしてそれで心が晴れるのだろうか、「人の心の痛みや苦しみはやはり当人しかわからないと思うんです」と言う幸四郎は、一方で、人間の心の底には悪に共感するところがあり、「そこをすくい上げて芝居にするから一つの演劇として成り立つ」と続けました。「運命を背負って悪をまっとうし、その人物を確立させる」、悪を徹底的に通すことで現実社会の善悪を超えた、純粋な“悪”が舞台に現れる…。それこそが検校なのでしょう。

 夜の部では新作歌舞伎の初演に挑みます。『幻想神空海』で勤める憲宗皇帝は、「空海を非常に評価している収め役。最後に幕を切る、『ハムレット』でいえばフォーティンブラスみたいな役です」。初演となる皇帝役についても、不知火検校同様に熱っぽく語ります。「芝居というのはやはり、役者が面白がってやらないとだめだと思います。携わっている人間に意欲、情熱がないと、生きた芝居はお見せできません」。『不知火検校』『幻想神空海』が生き生きと舞台に息づくのももうすぐです。

 

 歌舞伎座「四月大歌舞伎」は、4月2日(土)から26日(火)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹チケットWeb松竹スマートフォンサイトチケットホン松竹にて販売中です。

2016/03/25