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獅童、松也が語る博多座『あらしのよるに』

獅童、松也が語る博多座『あらしのよるに』

 

 

 11月3日(土・祝)から始まる博多座「十一月花形歌舞伎」で、新作歌舞伎『あらしのよるに』に出演する中村獅童、尾上松也が公演に向けての思いを語りました。

 絵本を歌舞伎として上演した『あらしのよるに』は、平成27(2015)年9月に南座で初演、翌年12月歌舞伎座の再演を経て、この11月の博多座が3つ目の公演。獅童の狼のがぶ、松也の山羊のめいも3度目となります。

 

初演の客席の熱が忘れられない

 原作が絵本だからといって「子ども向けにしているわけではありません。脚本に巡り合って、僕たちの精神が洗われるというか、真剣にとり組んだからこそ、感動を呼んだんじゃないかなと」。若い世代に歌舞伎を観てもらいたいとの思いが強い獅童は、学生の貸切日の盛り上がりに感動し、「こんなことが起こるのかって、二人で握手したくらい」だったと振り返りました。

 

 「稽古の段階から、きっと皆さんに愛していただける作品になるという、確信めいたものがありました」という松也は、「初演では今まで感じたことのないような昂揚感、手応えを感じましたし、盛り上がってくださったことがいまだに忘れられません。大声でお子さんが笑う歌舞伎って見たことがなかったので、本当にやる意味があるなと思い、させていただいたことが光栄でした」と目を輝かせました。

 

獅童、松也が語る博多座『あらしのよるに』

大人も子どもも自分のことを当てはめて観ることができる

 大人も子どもも、「それぞれが違った見方で楽しめるのが、素敵なところ。お子さんは楽しい友情だとか、立廻りの面白さとか、親御さんは複雑な心境や関係、社会関係などに思いを馳せながらも観ることができます。こういった作品はほかにはないんじゃないでしょうか」と、作品の魅力を語った松也。獅童も続けて、「海外でなら、人種問題を考えさせる見方もあるでしょう。自由な発想でいろいろなことに、無意識のうちにあてはめながら観ていただける作品です」。

 

 さらに、「ファンタジーでメルヘンな世界感。大人になると童心を忘れてしまうこともありますが、こういう作品に巡り合うことで感動したり、涙を流したりできる。だから、絵本は普遍的で幅広い世代に支持されるのかなと思います。歌舞伎もそう。400年前のストーリーに泣いたり笑ったりしてくださる。『あらしのよるに』に、友情、信じる力、愛…、生きていくうえでの永遠のテーマ、普遍的なテーマを感じとりました」。

 

歌舞伎の技法にこだわり、工夫を重ねたがぶとめい

 「演技の工夫と裏方さんの工夫」でつくり上げた獅童のがぶ。「動物らしく見せる基本は狐忠信にあると思います。それをアレンジして狼らしく。そして鬘(かつら)に衣裳。ですが、これが空気の逃げ場のない衣裳ですごく暑い。一度計ったら、1回で1.5キログラムやせていました」。また、がぶのせりふは語尾が「やんす」になるので、「皆の普段の会話も、そうでやんすねってなっちゃうんです」といったエピソードも飛び出しました。

 

 めいの松也は、「自分なりに山羊の蹄(ひづめ)の型をつくって、その手の形を続けているのが個人的なこだわり」と、握りこぶしの中指を少し突き出した形を見せました。一方で、原作が普遍的なテーマをもち、誰もが自分に引き寄せて読むことができるので、「実は雄、雌の表現はあまりされていません。ですから、中性的でどちらともいえないようなキャラクターにして、どんなふうにもとらえられることを大事にしたいと思いました」。

 

 「とにかく古典にこだわった新作、歌舞伎のいいところを凝縮している新作歌舞伎」と、あらためて作品の魅力を語った獅童。「心の声を義太夫で語って笑いが起きる、そんなことなかなかありません。義太夫、長唄をはじめ、踊り、立廻り、歌舞伎ならではの演出、演技など、古典にこだわり、絵本の世界観を壊さないようにしながら古風に見えるようにしています。アナログにこだわり、歌舞伎の古くからの表現方法にこだわりました」。

 

小さなお子さんも博多座へ!

 「親子で、小さいお子さんを連れて歌舞伎を観に行くって、なかなかないかと思います。でも、小さいときに観に行った映画、演劇は、この年になっても思い出したりもします。大人になって歌舞伎観たな、また行ってみようかなという気持ちになっていただけたら、この芝居をつくったかいがあるなと思います」と、獅童はお子さんも含めて、一人でも多くの方に博多座へお越しいただきたいと願いました。

 

 「これまでの2度の経験も生かし、さらにいいものに。絵本はロングセラーですが、歌舞伎も何度も上演されて、後世に残る作品になっていけたらいいなと思います」と、松也も博多座公演への意気込みを見せました。「毎回、原作のきむらゆういち先生からリクエストがあり、脚本がちょっと変わってきています。すでに今回もリクエストが入ったので、博多もちょっと変わると思います」との獅童の発言に、ますます開幕が楽しみになりました。

 博多座ではこの公演に限り、4歳以上の未就学児もご観劇できます。博多座「十一月花形歌舞伎」『あらしのよるに』は、11月3日(土・祝)から27日(火)までの公演。チケットは博多座ほか、各プレイガイドで販売中です。

2018/09/12