「パリと歌舞伎とオペラ座と」第2回

ガルニエの勧進帳 2

 花道のないオペラ座の舞台で『勧進帳』がどのように上演されたのか......。ニュースや舞台中継の映像などをご覧になった方はすでにご存知のことと思いますが、オペラ座では舞台前方のオーケストラボックスの上に張り出した、本舞台より一段低くなった前舞台を花道に見立てるという手法がとられました。

 舞台下手の揚幕から登場した義経主従は前舞台に下り、そこでいつもの花道での演技の後、ふたたび本舞台に上がる、というものです。飛六方による幕外の引っ込みは、いったん前舞台に下りた後にふたたび本舞台に上がり下手に引っ込む......というのが、團十郎さんの弁慶。

 海老蔵さんの場合は、前舞台からさらにオーケストラボックスの上に架けられた短い花道を経て客席中央の通路を花道に見立てる、というものでした。そしてこれは、舞台と客席との間に「距離を感じた」という海老蔵さんの希望を取り入れてのことだったのです。

 現地で24日に行われた記者会見で海老蔵さんは次のように語っています。
「花道をつくるのは難しいとうかがい、非常に残念だと思いました。ですが、僕はあきらめたくなかった......」。
 実際にやってみて無理があるようならあきらめる、という約束で稽古をしてみたところ、結果はGOサイン。海老蔵さんの願いは叶えられました。ですが、所作舞台が敷かれ本舞台からまっすぐに延びる歌舞伎座の花道とは比べものにならないコンディションです。

 仮設の花道は下方に向かって傾斜がついています。その花道から通路に下りるには客席とオーケストラボックスを隔てている囲いを股がなければなりません。通路に下りると絨毯敷きの上り坂のフロア。そして客席の最後部、引っ込んだ途端に待ち受けているのは階段です。

「肉体的にはかなりハード。勢いづいて階段を踏み外したら気を失って転落死かも。でも、ま、それも悪くないかなと(笑)。とにかくお客様の近くに行きたかった。少しでもお客様を近くに感じたかったんです」。
 客席のすぐそばを、豪快に軽やかに飛六方で通り抜けて行った海老蔵さん。そして観客もまた、海老蔵さんの存在を間近に感じることで至福の喜びを味わった様子でした。

 次回は、フランス語による口上の話題と、流暢なフランスを披露した市川亀治郎さんが舞踊家の藤間勘十郎さんとともに行ったレクチャーの様子を紹介します。

清水まり(フリーランスライター)