vol.1 歌舞伎ってお嬢様ワールド!?

幕間すずめ1

 お姫様から豪商の娘まで、歌舞伎のお嬢様も様々ですが、実は「最強の恋愛兵器」だと言えます。たとえば『野崎村』。イケメンの丁稚・久松を中心に、都会のお嬢様のお染、田舎娘のお光の「三角関係の話」です。

 えてしてお嬢様という人種は、大事に育てられてきたため、いちいち「人の思惑を気にする」習慣がありません。生活の苦労も知らず体力も温存しているせいか、好きになったらまっしぐら。久松に会いに来ながら、お光にも人形のお土産を持参するお染の感覚、バカにするなと怒りつつも、洗練されたお染にコンプレックスを感じるお光の反応も、時代を超えたリアルさがあります。
 視覚的にも豪華な振り袖のお染、カジュアルな普段着のお光、と対比が美しくきいて、立場の違いも一目でわかる。
 
 歌舞伎では『本朝廿四孝』の濡衣も、『妹背山婦女庭訓』のお三輪も、えてして庶民サイドの娘は恋愛において分が悪く、自己犠牲を強いられがち。
 ちなみに『野崎村』は世話版の『廿四孝』とも呼ばれており、作者も同じ近松半二(妹背山は合作)。対比的な作劇法でならした人ですが、時代物でもお嬢様の圧勝。何だかコンサバ系ファッション誌の「愛され」ブームにも通じているかのようです。


■辻 和子(イラスト・文)
恋するKABUKI フリーイラストレーターとして出版・広告を中心に活動中。
 エキゾチックな味わいが持ち味だが、子供の頃より観続けている歌舞伎の知識を生かした和風の作品も得意とする。
 現在東京新聞土曜夕刊にて、歌舞伎のイラストつきガイド「幕の内外」を連載中。
 著書にファッションチェックつき歌舞伎ガイド「恋するKABUKI」(実業之日本社刊)がある。