vol.3 歌舞伎って、ベストカップル?

幕間すずめ3

 歌舞伎には様々なカップルが登場します。
 たとえば「助六」。江戸一番のイケメンの助六と、吉原一の花魁・揚巻のカップルは「はつらつゴージャス系」。
 助六が「モテモテの上に、誰にもひけをとった事がないくらい強い男だ」と自信満々なら、揚巻も「鬼の女房には鬼神がなる、私に指一本でも触れたら、吉原一帯は闇だと思え」と敵役のお大尽・意休へ対し、超アグレッシブ。やんちゃな助六への姉さん女房ぶりといい、好一対です。

 同じ江戸系の美男美女でも、ぐっと色合いが異なるのが「与話情浮名横櫛」のお富と与三郎。人の妾だったお富との逢い引きが原因で、身体中切り刻まれた与三郎。再会した時、彼女は別の人間の囲い者になっていました。恨み事を言いつつ未練を捨てきれないお坊ちゃん育ちの与三郎に、アダルトなムードで応じるお富。これはこれで釣り合いがとれています。

 両者のタッチの違いは、力強く大らかな荒事劇が発達した江戸初期と、文化の爛熟した幕末という、書かれた時代のムードの差とも言えます。共通するのは、助六も与三郎も、「和事」という恋愛モードの柔らかい演技を、一部取り入れている点。また与三郎のようにイケメンな人物の白塗りは、もてる男の指標でもあります。助六の隈取りは「むきみ」といって、荒事でも色気のある役がとりますが、この隈をとる役には、たいてい彼女がいます。
 どちらも自分の雰囲気に似合った恋人がいる、というのがポイントです。

■辻 和子(イラスト・文)
恋するKABUKI フリーイラストレーターとして出版・広告を中心に活動中。
 エキゾチックな味わいが持ち味だが、子供の頃より観続けている歌舞伎の知識を生かした和風の作品も得意とする。
 現在東京新聞土曜夕刊にて、歌舞伎のイラストつきガイド「幕の内外」を連載中。
 著書にファッションチェックつき歌舞伎ガイド「恋するKABUKI」(実業之日本社刊)がある。