虎の巻

とらのまき

 源氏再興をめざす牛若丸が、平家方の兵法者、鬼一法眼(きいちほうげん)の館に身分を隠して住み込み、盗み出そうと狙っているのは《六韜三略虎の巻(りくとうさんりゃくとらのまき)》。

 『六韜』は、古代中国の周(しゅう)の国の軍師で、俗に言う太公望(たいこうぼう)、近頃は『封神演義』の主人公姜子牙(きょうしが)として有名な人物呂尚(りょしょう)が書いたとされている兵法書です。
 『六韜』は文韜、武韜、竜韜、虎韜、豹韜、犬韜という六巻から成り、このうち特に、兵法の奥義が記された虎韜=虎の巻のことを、秘伝書の意味で使うようになりました。やはり呂尚が著したといわれる『三略』とあわせて、『六韜三略』と称されることが多いようです。

 『義経記・巻第二 義経鬼一法眼が所へ御出での事』には牛若丸が鬼一法眼のもとへ入りこみ『六韜』を盗み読む話があります。また、『御伽草子』のなかにもまだ奥州平泉で藤原秀衡の庇護下にあった義経が、「大日の法」という兵法の巻物を求めて蝦夷が島の鬼かねひら大王のもとへ赴いたという冒険譚《御曹司島渡(おんぞうししまわたり)》があります。
 軍略の才に長けた義経のこと、きっとなにか《虎の巻》を持っていたに違いないと後世の人々は思っていたのでしょう。(み)



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