消え物

きえもの

 舞台で使われる小道具のうち、日々の舞台で消耗品として無くなってしまう物を「消え物」と呼びます。芝居のたびに壊してしまう皿や茶碗、破いたりあるいは燃やしてしまう手紙、またお香や煙草など意外に沢山ありますが、さらに客席から見ていて興味を引くのは食べ物でしょう。

 『入谷畦道』では雪の中をやってきた直次郎が熱々の蕎麦をかき込み、『髪結新三』では魚屋から買い付けた初鰹を刺身に拵えて大家さんにふるまいます。また『先代萩』では鶴千代君と千松が待望のおにぎりを口にし、『一本刀土俵入』の茂兵衛は両手に持った大きなおにぎりと芋をおもいっきりほおばってのどに詰まらせます。

 これらはまさしく本物を使うときもありますが、むしろそれらしく似せたお菓子を使うところに芝居ならではの工夫が凝らされています。例えば刺身なら梅羊羹を、柿などの果物では特注の和菓子を、おにぎりにはマシュマロを使うこともあります。これらを調達するのは基本的には小道具方ですが、物によっては劇場側が扱い、蕎麦など劇場食堂の職人さんが腕を振るうこともあります。(K)



解説

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