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青海苔と太神楽

あおのりとだいかぐら

 鎌倉時代から盛んになった伊勢神宮への信仰は、江戸時代中期に入ると民衆の間にもひろまります。人々は、一生のうち一度はお伊勢さんにお参りしたいと願うようになり、伊勢講という互助会組織をつくり旅行資金を積み立てました。
 その"一生に一度の大旅行"ともなる伊勢参宮の案内や宿の手配をしたのは≪御師(おんし)≫※1という神職でした。彼らは毎年、伊勢から全国各地に赴き、御祓(おはらい)※2、伊勢暦※3を配り、初穂料を集め、伊勢参拝の勧誘をしました。伊勢信仰をひろめる布教者であるとともに、今で言うツアーコンダクターの役目を果たしていたのです。

 そんな御師たちが"お得意さま"である信者のもとを訪れる際、御祓や暦のほかに手土産として持っていくものの一つに青海苔がありました。伊勢の特産品であり、軽くて持ち運びも楽で、安価なことから、配り物としては最適だったと思われます。

 『仮名手本忠臣蔵』≪七段目・祇園一力の場≫で、主君の仇討の一味になんとか加えてもらおうとする足軽の寺岡平右衛門に、大星由良之助が
「其元(そこもと)は五両に三人扶持※4の足軽殿、はっち坊主の報謝米ほど取っていて、命を捨てゝ敵討ちしょうとは、青海苔貰うた返礼に太々神楽(だいだいかぐら)うつようなもの。」
と言っているのは
"お前は年に五両と米十五俵ほどという薄給の身、托鉢坊主がお情けにもらうお米ほどのわずかなお手当てしかもらっていないのだから、敵討ちに加わって命を捨てるのは、伊勢の御師の持ってくる粗品をもらって感激して太神楽を奉納するようなもので、割に合わないよ"
と、諭しているのです。(み)

※1 伊勢の御師にかぎって<おんし>と呼ぶ。その他の神社の御師は<おし>という。
※2 災厄よけの神符。(『素襖落』のなかで太郎冠者が伊勢のお土産に買ってこようといっている<御祓さま>というのも、この神符のこと。)
※3 伊勢周辺で発行されていた暦本。現在、伊勢神宮で発行されている神宮暦の前身にあたる。
※4 扶持米や扶持米取(ふちまいとり。扶持米をもらって生活する侍のこと)をさす。下級武士に支給される手当てで、一人当たり一日五合⇒年に換算すると1石八斗⇒約五俵ぐらいになる。これを月割りで毎月支給された。



解説

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