ウィリアム・シェイクスピアの『十二夜』がイギリスで初演されたのは1600年から1602年頃と言われています。それは日本で歌舞伎が誕生した時代とほぼ同時期。
当時交易すらなかったふたつの国で、同時代に人々を熱狂させた芝居が21世紀に出会い生まれた『NINAGAWA 十二夜』(※1)。菊之助さん念願のロンドン、シェイクスピアの国で演じた舞台が大成功のうちに幕となったのは、皆さんご存知の通りです。
菊之助 「僕が思っていた以上に、ロンドンの皆さんが作品をストレートに楽しんでくださったのが嬉しかったです。『NINAGAWA 十二夜』はシェイクスピアの原典そのものではありません。歌舞伎にするにあたり、原典にあるものを削ったり、逆にシェイクスピアにないものを足した部分もありますから」
タイムズといった一流紙の劇評は「歌舞伎の新たな挑戦」と四つ星の評価。一方で「シェイクスピアの原作をもっと活かして欲しかった」という厳しい劇評もありました。その『賛否両論』を知ったことこそ、ロンドン公演の収穫だと菊之助さんは真摯に語ります。
富樫 「やはり緊張なさいましたか?」
菊之助 「もちろんです。ロンドンでも特別な劇場で演じさせていただくことになりましたからプレッシャーがかなり大きかったです。幕が開くまでは正直、不安と緊張でいっぱいでした」
富樫 「初日の大絶賛を受けて、翌日からは当日券売り場にも行列ができたそうですね」
菊之助 「ロンドンでは台詞を字幕でお出ししたのですが、観客の皆さんには言葉を超えたところで楽しんでいただけたという実感があります。本当に笑っていただいたし、心から楽しんでいただいたとカーテンコールでの温かい拍手を受けて感じました」
今回『十二夜』が上演されたのは、シティ・オブ・ロンドンにあるバービカンシアター。かつてロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの本拠地として、シェイクスピア作品が上演され続けた劇場です。
菊之助 「舞台と客席がとても落ち着いた光に包まれている劇場なんです。壁も木でできていて暖かみがありました。劇場のそこここにロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが過ごしてきた時間、芝居を愛し真摯に向き合う人たちが過ごしたとてもいい時間が刻まれているのを感じました」
我々観客が劇場で目にするのは、俳優が演じるその日その時に流れる限られた「時間」。しかしそこには、作品が生き続けてきた「時間」、幾多の舞台人が作品と向き合ってきた「時間」が凝縮され宿るのではないでしょうか。だからこそ「物語」として書かれた芝居はひとつの生命を宿して生き続ける。
歌舞伎とシェイクスピア。400年以上、生き続けるふたつの演劇が内包するものとは。
菊之助 「ストーリーのダイナミズムだと思います。歌舞伎にもシェイクスピアにも理屈では語れない物語の展開があり、それによって人の心が揺さぶられていくところがあります」