歌舞伎俳優のかたに、このような質問をするのをかなり躊躇したのですが、あえて伺ってみました。
富樫 「菊之助さんが人生で初めて『歌舞伎って面白い』と思ったのは?」
菊之助 「父の弁天小僧を観た時です(※2)。女が男に変わる瞬間、弁天小僧という人物が持つ粋な悪さ、歌舞伎の台詞の美しさ、そして大詰めに向うまでのスペクタクルな立廻り・・・。魅了された、という言葉に尽きると思います」
富樫 「ちなみに、おいくつぐらいの時ですか?」
菊之助 「ものごころついたくらいですから・・・5歳くらいだと思います」
富樫 「惹きつけられた理由を伺うと改めて、歌舞伎の粋(すい)が凝縮されているお芝居ですね。分かりやすい面白さのある…」
菊之助 「弁天小僧という役はそもそも五代目菊五郎のために書き下ろされたものですから、役者の魅力で魅せる歌舞伎の面白さがまずあります。さらに装置や衣裳といった視覚で魅了する歌舞伎のエンターテイメント性。この両方が眼の前に迫って感じられた衝撃は忘れられません」
富樫 「プライベートでもお芝居はご覧になりますか?」
菊之助 「はい。観に行くのは大好きです」
富樫 「ロンドンでもご覧になりましたか?」
菊之助 「2本ほど、ストレートプレイを観ました。言葉が完璧には分からないので、かえって芝居の本質に触れたような気がして新鮮でした。芝居は台詞ももちろん大切ですが、むしろ眼の前で演じている人物の動きや心を観ている部分が大きいのだと思います。言葉を超えたところで俳優は何を伝えるべきかを考えさせられました」
富樫 「初めて歌舞伎を観る方に、おもしろさを伝えるとしたら?」
菊之助 「最初は知っている役者を観るという楽しみでいらっしゃるといいのではないでしょうか。舞台の醍醐味は生身の人間が眼の前で全く別の人間を演じ、ストーリーを紡いでいくライブ感ですから。まずは知っている人を観てみようと思うと、楽しめると思いますよ」
劇空間は、日常と扉一枚で隔たった非日常を生きる場所。そこは自分自身の魂を取り戻す場所でもあると菊之助さんはおっしゃいます。
生身の人間同士が言葉を超え、ひとつの心を分かち合う。それが芝居を観るということなのだとお話を伺い改めて考えました。