美術監督・種田陽平さんの活躍は国内にとどまりません。中でも2002年に大きな話題となり注目されたのが、クエンティン・タランティーノ監督作品『キル・ビルvol.1』(※2)です。ヤクザ映画を愛するタランティーノ監督が日本映画へのオマージュを込めて制作した作品は、外国人目線のちょっとずれた日本感が公開当初からファンの間で絶賛されました。
富樫 「この作品の中でも、最後の決闘シーンの舞台となる料亭が個人的に大好きです。観た時に歌舞伎っぽいなと感動してしまいました」
種田 「そうですか。『キル・ビル』は映画の制作を中国でしていたので、大道具が日本より“大味”に上がってくるものだから頭を抱え続けていたんですよ(笑)。日本人の美術監督が、このずれた日本感をそのまま出してしまってもいいものだろうか?日本の観客に受け入れてもらえるだろうか…と悩んだり」
富樫 「(笑)ご本人は心配になりますよね…。ただ、あの大味加減がとても歌舞伎的だなと勝手に思っていました。料亭なのに壁が奇抜な赤色だったり、デコラティブな欄間があったり、極めつけは照明ですよね。映画ではめったに観ない、歌舞伎のようなベタ明かりで…」
種田 「世界的に有名な撮影監督、ロバート・リチャードソン(アカデミー撮影賞を二度受賞している)が照明の設計をしたので、間接照明を駆使した美しく陰影のある画になる予定でした。ところが美術と照明が出来上がったところでタランティーノがセットに入って来て『もっと明るくしてくれ』と」
富樫 「だいなしに(笑)」
種田 「監督は『これはB級映画なんだから、A級映画のように作り込まないで欲しい』と。スタッフ一同多少、肩を落として(笑)全部やり直したんです」
富樫 「全く陰影のないベタ明かりもそうですし、決闘シーンに使われる料亭のメインセットが舞台のように正面に開けた構造になっているんですよね。それも歌舞伎っぽいと感じたひとつの要因なんでしょうか…」
種田 「それは言えるかもしれませんね。僕が驚いたのは、通常、舞台のように間口が開いた美術を映像で切り取ると、映像と観客の間にものすごく距離感が生まれるんです。けれども『キル・ビルvol.1』は、赤い壁やベタ明かりの効果なのか美術が観る人の眼の前に迫ってくる仕上がりになりました。これは外国人が考える“ちょっとずれた日本らしさ”との相乗効果だったと思います」
種田さんのお話を伺っていると、歌舞伎の劇空間には世界でも類を見ないひとつの特徴があるように思えてきます。それは、いい意味での“ニセモノ感”。