日本アカデミー賞の優秀美術賞を獲得した映画『スワロウテイル』や『ザ・マジックアワー』の美術。三谷幸喜監督作品の『THE 有頂天ホテル』。江戸の長屋でありながら、モダン建築のような美しさを漂わせる『怪談』の女師匠の家。
種田さんが作り出す美術は、スラム街、ホテル、長屋…と誰もが知る空間でありながら、どこか知らない幻想的な世界を作り出します。その源とは…
種田 「自分の子供の頃の記憶を掘り起こして、かたちにすることが多いですね。友達と遊んだ空き地だとか、家族旅行で訪れた場所で観た一瞬の光景とか…。それがどこであるかとか、何をしたかということを覚えていないことも多いのですが、忘れられない光景というものを投影しています」
富樫 「記憶になっているからこそ、抽象化されていくのでしょうか?」
種田 「それもあります。あとは、具体的なことまで含めて思い出したとしても子供の自分が観て面白いと思う部分以外をどんどん削ぎ落としていくと、自分でも今回はよくできたなという美術になることが多いですね」
富樫 「リアルに作り込んでありながら、アンリアルということですね」
種田 「ですから美術プランを作る時は、子供時代の自分と常に対話しているような感じです。『ここ、面白いと思う?』と。変ですけど(笑)」
富樫 「一度も見たことのないものを見て、これだ!と思うこともありますか?」
種田 「もちろんです。実は今日、筋書に載っていた大正時代の『真景累ヶ淵』の舞台写真を見て驚いたんですよ…。自分がイメージしていた女師匠の部屋そのものが、歌舞伎の舞台にあった!って」
富樫 「部屋だったり場所だったり、私たちが劇空間に求める風景は、自分が持つイメージの集積なのかもしれませんね。だから書割の大道具でも、感情のスイッチが入って切なくなったり、泣いたりするんでしょうね」
種田 「今のところ、特に日本映画はリアリズムを追求し続けていますが、僕はもうちょっと舞台空間が持つ空気を取り入れて新しいものを作っていけないか考えているんです。リアルなクオリティーばかり追求せず、書割風でも人の心を打つようなものが作れたら最高ですよね。もちろん企画次第ではありますが、映画、歌舞伎、ジャンルにこだわらず、美術的におもしろいと思える要素を一つの空間に作り込んでみたいと思います」
劇場の幕が開いた時、映画のタイトルが始まった時に、私たちを別世界へと引き込む美術の力。眼の前に広がる、知らないれけどよく知っている場所は、美術監督と我々の記憶の交差点と言えるのかもしれません。想像力を補って観る芝居には、エモーション(情熱)が要る。種田陽平さんの視点を通して、また舞台を観る楽しみがひとつ分かった気がします。