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唐草文様がたどった旅路

 唐草というと緑色に白抜きといった「泥棒の風呂敷」を連想してしまいます。そのため日本独特の文様ではないかとイメージしてしまいますが、起源は古代エジプトに遡ります。
 正確な起源には諸説あると言われていますが、古代エジプトの植物文様や帯状の渦文様が唐草の母体になったと考えられています。

 紀元前2000年〜1400年頃のエジプトの石碑や食器には、睡蓮の花をモチーフにした文様が多く発見されています。睡蓮はナイル川流域に生息し、古来、エジプト人にとってはナイルの豊かさをあらわす宗教的なモチーフでした。人々は、その特別重要な意味を持つ花で身の回りを埋め尽くし幸福を願ったそうです。そして円や波、渦巻きといった原始的文様と植物のモチーフが融合し、やがて唐草へと発展したのです。

 エジプトで生まれた睡蓮の文様は古代オリエントからアジアへと伝わり、無数の花や実をつけ次の生命を生み出してゆく「生命の樹」に形を変えてゆきます。古代ギリシャではイチヂクの木、ヘブライ圏では葡萄の木、メキシコのマヤ文明の絵にも登場しますし、仏教世界では菩提樹をデザインしたものが残ります。世界はまさに文様でつながっているのです。

 葡萄の一大産地だった古代オリエントでは紀元前3千年前から葡萄の樹が聖樹とされ、4世紀には葡萄唐草が生まれます。葡萄唐草はガンダーラ、アフガニスタンへと伝わり、やがて中国へともたらされます。中国の敦煌(とんこう)や雲岡(うんこう)の石窟に葡萄唐草のモチーフが多く見られます。

 唐草はエジプトからオリエント〜近東〜中東〜中央アジア〜中国と人々が行き交った遥かなる道程を旅し、植物をモチーフとした文様が持つ生命力そのままに大地に長い蔓を這わせてゆきました。

 日本に残る最古の唐草文様は、中国の六朝時代(3世紀〜6世紀)の文化が朝鮮半島を経て伝えられたものだと考えられています。馬具や武具にあしらわれた唐草は魚や鳥獣をモチーフにした北方系の文化の流れを示します。また同時代のものに、ローマ発祥のモチーフであるアカンサスの葉の唐草を刻む遺品も残ることから、5世紀頃に日本とユーラシア大陸との交易の結果もたらされたと考えられるものもあります。

 仏教寺院や貴族の邸宅に装飾として取り入れられた唐草は、四季折々の花鳥風月をとりいれ日本の地で新たな生命を伸ばしていきました。特に装飾文様の黄金時代であった江戸時代にはたくさんの唐草文様がデザインされ、日本独自に創られたものが主流を占めるようになります。

 歌舞伎の衣裳にもアレンジされた唐草が登場します。武士の裃や長袴、大道具の中に取り入れられた唐草は江戸から現代へ、舞台を通じて生命の蔓を脈々と伸ばしています。


右/パルメット唐草、バビロン、紀元前6世紀頃
左/ロータス唐草、ニネヴァ、紀元前7世紀頃
※パルメットとはシュロの葉を扇形に開いたような植物文様のこと。古代エジプト・アッシリアを起源とする。ロータスとは蓮の花のこと


右/生命の樹、メソポタミア、紀元前9世紀頃
左/葡萄唐草、イギリス、8世紀頃


右/尾形光琳の画風により意匠化した光琳梅文、日本、江戸時代
左/瓢箪唐草、日本、江戸時代


『仮名手本忠臣蔵』松の間刀傷の場 高師直の衣裳


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