「僕は小さい頃、ロビーの赤い大きな柱が大好きでね。あそこに蝉みたいにしがみついて遊ぶのが大好きでした(笑)。お正月飾りの餅玉飾りも大好きでね。白と桃色の玉を手でくしゃっと握ってつぶすのを“趣味”としていました。受付係の方にはずいぶん怒られましたね(笑)」
歌舞伎座はもうひとつの自宅。幕間の最中、放送室に入って即興アナウンスをしてしまったり、揚げ幕の奥から先代の芝居に見入った思い出を話す勘三郎さんの活き活きした表情に、少年時代の様子が浮かびます。
「中村屋は、芝居に出ている月は客席から見えないところで舞台を観るのが決まりでした。ですから父親の芝居は照明室で観せてもらっていましたね。揚げ幕の裏、舞台の袖、あとは浄瑠璃の方が座る“チョボ床”も特等席でした。二代目松緑のおじさんの『魚屋宗五郎』、後ろ姿ばっかり見ていたけれど、カッコ良かったですね」
「近代的になっても人肌や木のぬくもりを感じる今の劇場の空気が残っていくといいですね。あとは私たち役者がいい芝居をしていくに尽きます。劇場が変わっても、歌舞伎は芝居が命ですから。新しい時代を作っていく一員であることに、ワクワクします」