現在の歌舞伎座は中村芝翫さんにとってのホームグラウンド。格別の親しみがあると言います。
「歌舞伎座の舞台に立つと、何とも言えない安心感に包まれます。幼い頃から一番親しんできた劇場ですから、本当に我が家と同じです。好きなのは初日前の舞台稽古です。稽古が始まる前、大道具の調整をするトントンという音を聞きながら舞台の真ん中に立って客席を眺めていると『あぁ、歌舞伎座はいいなぁ』と声に出して言ってしまうこともあるんですよ」
楽屋には、亡き祖父・五代目中村歌右衛門、父の五代目中村福助の思い出が生きています。
「私が今使っている楽屋と同じ場所に祖父の楽屋がありました。子供心に襖絵が豪華だったのが今も目に浮かびます。入ってすぐの袋戸棚には川合玉堂さんの、襖には寺崎広業さんの絵が描かれていました。空襲で焼けてしまったのが本当に残念です。父の楽屋は2階でした。当時の楽屋は扉ではなく障子で全て仕切られていましてね、挨拶で入る時には障子の前で草履を脱ぐんです。楽屋は間取りがほとんど変わっていませんから、当時見た光景が鮮やかに目に浮かびます」
その歌舞伎座が新しくなり開場するのは、3年後です。
「孫たちも成長しているでしょうし、新しい歌舞伎座でまた一緒に舞台に立てることが今から楽しみです。思い出の詰まった劇場がなくなるのは正直寂しい気持ちもありますが、観に来て下さるお客様がもっと快適に過ごせるような劇場に生まれ変わることを期待します。これからの3年間は、早く新しい歌舞伎座ができるといいな、と楽しみにしながら過ごすと思います。いよいよあと1年となったら待ち遠しくてたまらなくなるでしょうね。日めくりをめくるような気分で新しい歌舞伎座でのお客様との再会を待つつもりです。それまでは他の劇場で、最高の歌舞伎を演じ続けていきたいと思っております」