歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



もっともっと楽しんでいただくために


大役、政岡

 杮葺落興行出演が続き、5月には『伽羅先代萩』の政岡をなさいます。我が子の千松を犠牲にしてまで若殿鶴千代を守ろうとする乳母で、女方屈指の大役です。
 「一人で芝居をするところも多い、女方のトップの役です。私は81歳。お話を頂戴したときに、“この年齢で政岡をなさった方はいません”と言われました。この頃、役をするとそう言われることが多いんですよ。気障なようですが、私はどんな役でも、いつも初役のつもりで勤めています」

 藤十郎さんの政岡の特色をお教えください。五世歌右衛門型と違い、上手に障子屋体があり、そこに鶴千代を隠されます。それと「飯炊き(ままたき)」までのテンポが速いのが印象的です。カットされることの多い、鶴千代の政岡親子への「そちたちが食べぬ内、いつまでもおれはこらえている」のせりふもあります。政岡と鶴千代の信頼関係がよくわかります。
 「私の政岡は、大阪の女方プラス丸本物です。大阪の演じ方よりも強い、人形浄瑠璃と同じ、しっかりして気丈な、男勝りの政岡です。そういうつくり方を、ずっとしております。先輩方を否定している訳ではありません。政岡という人物を表現するのに、一番適していると思うから、このやり方をしております」
 せりふもほかの俳優さんとはずいぶん違った調子に聞こえます。
 「丸本でやるから、タテコトバで畳み込むように言うので、息も詰む。せりふが大変です。リズムが周りの方と合わなくなるといけないので、こういう形でお付き合い願いたいということは、稽古のときに申し上げます。鶴千代の位置も変わりますしね。でも、このやり方で何度も上演しているので、皆さんわかってくださっている。えーっとおっしゃる方はおられません。政岡は栄御前を見送り、一人きりになってから初めて母親の心に戻ります」

上方の歌舞伎、江戸の歌舞伎

歌舞伎座 柿葺落四月大歌舞伎

平成25年4月2日(火)~
28日(日)
公演情報
第一部
『壽祝歌舞伎華彩』

藤十郎
春の君 染五郎
宮中の男 権十郎
亀 鶴
松 也
萬太郎
廣太郎
宮中の女公 高麗蔵
梅 枝
壱太郎
尾上右近
廣 松
女御 魁 春

 上方歌舞伎を牽引するお一人として、常から、上方と江戸、両方の歌舞伎が繁栄することが大切とおっしゃいますね。
 「歌舞伎の幅が狭まってしまうのは残念です。長男の翫雀が昨年9月に大阪松竹座で『雁のたより』をいたしました。以前に私が三二五郎七(さんに ごろしち)を演じたときに、稽古で武士役の俳優が台本を見ていたのを、叱ったことがあります。“狂言にもよるけれど、上方の芝居は台本のとおりにせりふを言わなくてもいいんだ”と言いました。せりふを正確に言うよりも、多少違っても、それらしいムードが出たほうがいい。“そういうことがわからないと、上方歌舞伎は楽しくならないよ”と注意しました」

 上方歌舞伎はそうして継承されていくのですね。
 「東京の芝居でも同じです。『牡丹燈籠』を(二世)松緑にいさんの伴蔵、私のお峰で演じたとき(昭和37年7月大阪新歌舞伎座)でした。台本どおりにと思っていたら、にいさんが“ぼん。そんなにきっちり言わなくていいんだよ。それよりムードを出したほうがいい”とおっしゃいました。ああ、上方歌舞伎も江戸の生世話物も同じなんだと思いました」

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