歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



TBS赤坂ACTシアター「赤坂大歌舞伎」『夢幻恋双紙 ~赤目の転生~』
今度の舞台を楽しく見るために

ようこそ歌舞伎へ 中村勘九郎

太郎のどこかに自分を見出す

 ――勘九郎さんが演じられる太郎は、七之助さん演じる歌に恋し、幸せにしようと転生を繰り返します。

 最初の太郎は、どうしようもない人間です。卑屈で、いつも物事から逃れようとします。歌の兄の源乃助に、「帰ってくれ」のひと言が言えません。本当に駄目な奴です。転生後も、金と権力に執着する男だったり、人がよく人気もありますが、自分が歌に恋しているのにもかかわらず、友達が好きなのを知って二人の恋に手を貸し、自分はどんどん寂しくなっていく男だったりします。

 今回のテーマは、どれだけお客様に考えてもらうかです。男なら全部の太郎のどこかに自分を見出すと思います。太郎は、どうしたら歌が自分を本気で好きになってくれるかと、もがき苦しみながら転生を続けます。常に歌のためにと思っているのですが、方向性を間違えています。

 ――歌はどんな女性ですか。

 ちょっとミステリアスで悲しげな女性です。太郎の転生に従って歌も変わります。最初の太郎はどうしようもない男なので、所帯を持っても歌が一人で働かざるをえず、心身ともにボロボロになります。2回目は太郎に支配されて何も言えない妻で、外に出してもらえず、束縛されています。

『夢幻恋双紙 ~赤目の転生~』(ゆめまぼろしかこいぞうし あかめのてんせい)

 太郎の隣に引っ越してきた歌は気立てがよくて働き者、おまけに美人と評判。しかし、兄の源乃助は不気味な雰囲気を漂わせ、太郎も遊び仲間の剛太、末吉、静も怖がって避けていました。太郎が大きくなったある日、寝たきりだった歌の父、善次郎が借金を残して逝ってしまいます。源乃助にも見放された歌に援助を申し出たのは太郎でした。とはいえ、仕事もなく歌に謝るばかりの太郎。夫婦になって2年がたち、歌もいよいよ愛想が尽きてきたところ、太郎は仕事をもらっていた源乃助に突然、斬られてしまいます。
 目を覚ました太郎は、少し赤くなった目を押さえながら、自分がクズな男だったせいで殺された夢を見たと、剛太たちに話していました。子ども時代に戻っていた太郎は、今度こそ歌を幸せにすると心に誓います。やがて夫婦になった歌とも、以前とはまったく違った生活を送っていましたが…。

新しい歌舞伎のジャンルになる

 ――転生についてはどうお考えですか。

 転生は作・演出の蓬莱竜太さんのアイディアです。転生する度に太郎の性格は変わります。転生によりなりたかった自分に変わりますが、転生前の記憶はありません。僕にも日常で、「この仕事していたら」ということも、「やらなければよかった」ということもありますがそれと同じです。太郎は“大江戸タラレバ男”。そこに太郎の赤い右目の謎が絡み、最後にそのからくりが明らかになります。

 ――主要登場人物は七人です。太郎の転生とともに、周囲の人々の境遇も変わっていきます。

 とにかく人物がよく書けています。

 ――どんな新作になりますか。

 時代物ではないですし、世話物かというとそうでもありません。せりふ劇ではありますが、真山青果物などとは違います。普遍的な日常を描いた現代の感覚に近い作品なので、歌舞伎のなかでも新ジャンルが生み出されるのではないかと思っています。もし自分がレンタルビデオ店の店員なら、DVD化されたこの作品をどこに置くかと悩みます。ミステリーの要素もSFの要素もあります。

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