歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



歌舞伎座「六月大歌舞伎」『曽我綉俠御所染』
知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 市川左團次

いつかは百貫目の荷物が背負えるようになる

 ――土右衛門は十七世羽左衛門さんに教わられたとうかがいました。羽左衛門さんは、どんな教え方をなさる方でしたか。

 僕は羽左衛門のおじさんから教わったものがいちばん多いですね。最初が「角力場」(昭和39年1月東横ホール)の濡髪長五郎かな。楽善さんの放駒長吉でした。

 そのときにおじさんは、「お前には百貫目の荷物を背負わせているんだ。今のお前に背負えるわけはないのだが、“ああこんなもの背負えない”と思って投げ出しちゃだめだよ。背負えないことを承知で、いつも背負っていれば、いつかは百貫目の荷物が簡単に背負えるようになるんだから、それまで下したらだめだよ」と言われました。

 いちばん印象に残っているのは、『仮名手本忠臣蔵』の高師直です。最後に見ていただいたのが新橋演舞場公演(平成13年3月)のときでした。おじさんは石堂右馬之丞に出ていらして、喧嘩場(「三段目」松の間刃傷)の最初ぐらいから劇場にいらっしゃって芝居をご覧になっていました。毎日のように楽屋に呼ばれ、だめ出ししていただきました。

歌舞伎座「六月大歌舞伎」

平成29年6月2日(金)~26日(月)

『曽我綉俠御所染』御所五郎蔵

御所五郎蔵 片岡  仁左衛門
傾城皐月 中村  雀右衛門
子分梶原平平 市川  男女蔵
同 新貝荒蔵 中村  歌 昇
同 秩父重助 坂東  巳之助
同 二宮太郎次 中村  種之助
同 畠山次郎三 中村  吉之丞
花形屋吾助 片岡  松之助
傾城逢州 中村  米 吉
甲屋与五郎 中村  歌 六
星影土右衛門 市川  左團次

父から教わらなかったおかげで

 ――左團次さんは尾上菊五郎劇団のご所属ですね。

 菊五郎劇団では、劇団員が幹部から名題下さんまで、よってたかって教えてくださいました。名題下さんとはいえ、僕らよりもずっと前からご主人について修業していらっしゃいます。ご自分では、その役をなさらなくても、ご主人の演じ方は覚えていらっしゃるわけです。「うちの旦那はこうじゃありませんでした、ああでしたよ」と教えてくださる。

 聞けることは、「はい」と聞いて、教えていただいたことを本番で活かすようにします。「なんだ、俺が教えてやったのに、何もしてねえんだな」、となったら、誰も教えてくださらなくなりますからね。でも、困るときもありました。ちゃんと教えてくださった方がいるのに、僕のやり方が悪いにしても、ほかの方からご注意を受けて、教えていただいた演じ方を直すということはできないからです。

 ――お父様の三世左團次さんからは、あまり教わられなかったのでしょうか。

 父は僕にまったく教えてくれませんでしたが、「この役は羽左衛門のおじさんにうかがいなさい、この役は(二世)松緑のおじさんに教わりなさい」とお師匠さんを決めてくれました。

 歌舞伎俳優は、自分の父親がいちばん偉い、うまいと思っている場合が多いわけです。おとっつぁんがいちばん偉い、うまいと思っていると、ほかの俳優さんが教えてくれても、「何言っているんだ、俺はいちばん偉くてうまい役者に教わっているんだから、ほかから言われても聞き耳持たなくていいんだ」ということになってしまいます。僕は、父が教えてくれなかったお陰で、どなたのおっしゃることでも聞けるようになりました。

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