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歌舞伎いろは

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歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」『極付幡随長兵衛』『ひらかな盛衰記』
今度の舞台を楽しく見るために

ようこそ歌舞伎へ 中村歌六

格好よくやらなければいけない役

 ――歌六さんは『幡随長兵衛』では町奴の唐犬権兵衛をなさいます。役としては2度目でいらっしゃいますが、この狂言にはたびたびご出演です。

 最初は(十七世中村)勘三郎のおじさんの長兵衛の子分でした(昭和44年1月歌舞伎座)。その後、吉右衛門のお兄さんの長兵衛で出尻清兵衛と近藤登之助も演じました。唐犬を初演したのは平成6(1994)年6月の歌舞伎座で、(萬屋)錦之介の叔父の長兵衛でした。

 唐犬は、(二世中村)又五郎のおじさんが稽古を見てくださいました。そのとき、錦之介の叔父は「長松をやらせたら、俺はうまいよ」と、ふざけて笑いながら言っていました。

 ――唐犬権兵衛をどんな人物だと思われますか。

 唐犬は長兵衛の弟分で、町奴の副将格です。格好よくやらなければいけない役だと思います。

 長兵衛が水野十郎左衛門に藤見の宴に呼ばれ、行くことを決意したときに、大将である長兵衛が先頭を切って行ったらおかしいから、自分が行くと言い出します。自分が水野たちに殺されてくるから、その後で仕返しに大将である長兵衛が出て来てくれれば、筋が通ると説得しようとしますが、長兵衛の堅い決意を聞かされます。そして、わかったから好きにしてくれ、その代わり後始末で仕返しするときは自分も命を捨てると言います。

歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」

平成29年9月1日(金)~25日(月)

『極付幡随長兵衛』

幡随院長兵衛 中村  吉右衛門
水野十郎左衛門 市川  染五郎
近藤登之助 中村  錦之助
子分極楽十三 中村  松 江
同 雷重五郎 中村  亀 鶴
同 神田弥吉 中村  歌 昇
同 小仏小平 中村  種之助
御台柏の前 中村  米 吉
伊予守頼義 中村  児太郎
坂田金左衛門 中村  吉之丞
慢容上人 嵐   橘三郎
渡辺綱九郎 松本  錦 吾
坂田公平/出尻清兵衛 中村  又五郎
唐犬権兵衛 中村  歌 六
長兵衛女房お時 中村  魁 春

 ――長兵衛のためには命も張る男ですね。

 長兵衛が死ぬことは、権兵衛をはじめとする子分も、女房のお時もわかっています。わからないのは子どもの長松だけというのが悲しいですよね。そこで切ない「子別れ」の場面になります。

 完全なる男の世界です。兄弟分というのは、心情的には今もきっとあるでしょう。死なないまでも、あとは自分にまかせてくれと言ってくれる人がいたら、それは格好いいですよね。

町人の代表のような長兵衛たち

 ――町奴と旗本奴の対立が作品の軸となります。

 河竹黙阿弥により、この作品が書かれたのは明治に入ってからですが、江戸時代の武士に対する庶民の反感を代弁しているところがあると思います。旗本によって組織される白柄組と対抗し、命を賭けて張り合う、町人の代表のような町奴を見て、お客様たちは気持ちがよかったのではないでしょうか。

 水野は、歌舞伎ですから格好いい役になっていますが、よく考えると悪い奴でしょう。庶民は、白柄組の旗本奴を「嫌な奴だな」と思い、一方の町奴は格好いい、と溜飲を下げた部分があったんでしょうね。

 ――歌六さんは平成18(2006)年2月に、近藤登之助をなさっています。

 水野の仲間の登之助も、やはり嫌な奴です。後ろから長兵衛を斬ったらいけない。反則ですよ。この作品では旗本側はダーティーに描かれています。いわばヒールですよね。

『極付 幡随長兵衛』(きわめつきばんずいちょうべえ)

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平成6年6月歌舞伎座
(C)松竹株式会社

 「公平法問諍(きんぴらほうもんあらそい)」の芝居半ば、旗本水野十郎左衛門の家臣と舞台番がひと悶着起こした村山座。町奴の幡随長兵衛がその場を収める様子を見ていた水野は、長兵衛に覚えていろよと声をかけました。

 その後も水野の白柄組と長兵衛たち町奴の対立が続くある日、長兵衛は水野から酒宴に呼ばれます。女房のお時にあつらえたばかりの羽織袴を用意させ、このままではいずれ天下の騒動になるからと、長兵衛は覚悟を決めて迎えに応じる様子。弟分の唐犬権兵衛や子分たちはなんとか引き止めようと説得しますが、おとっちゃんと別れるのはつらいと長松に泣きつかれても、長兵衛の意地は揺らぎません。遺言を残し、清兵衛に耳打ちすると、水野の屋敷へ一人で出向きました。

 酒宴では水野や近藤登之助たちが、長兵衛と酌み交わしながら、じわじわと仕掛けてきます。さすがは頭と呼ばれるだけはあると感心された長兵衛も、とうとう追い詰められてしまいました。

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