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歌舞伎いろは

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歌舞伎座「二月大歌舞伎」『一條大蔵譚』
今度の舞台を楽しく見るために

ようこそ歌舞伎へ 十代目松本幸四郎

これぞ歌舞伎という作品

 ――『一條大蔵譚』の一條大蔵長成は平成25(2013)年3月に初めて勤められ、今回が2回目になります。

 初演では叔父(吉右衛門)に教えていただきました。憧れといいますか、このお芝居ができる役者になるのが目標でした。華やかで、これぞ歌舞伎という作品です。序幕のつくり阿呆の楽しさがあって、「物語」があり、最後に長成は孤独になっていきます。ドラマティックな演目です。

 ――播磨屋(吉右衛門家)のやり方ですと、「檜垣」「奥殿」での上演になります。「檜垣」で長成は御所の門から登場します。

 足音を立てて中から現れます。奉公を願うお京の舞に見とれて床几から転がり落ちます。ただ落ちる、のではなく、お京に気を取られて落ちてしまい、それが型にもなっているので、とても難しいですね。

『一條大蔵譚』(いちじょうおおくらものがたり)

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撮影:加藤 孝

 平清盛が栄耀栄華を誇る世、清盛の愛妾だった常盤御前は、今は都中で阿呆と噂される一條大蔵卿に嫁いでいます。御所の門前で茶屋の亭主から、その常盤御前の様子を聞き出しているのは鬼次郎とお京の夫婦。ほどなく御所帰りの大蔵卿の一行が現れ、家来勘解由の妻、鳴瀬の口添えで、お京は大蔵卿に召し抱えられました。

 お京の手引きで大蔵館に忍んできた鬼次郎。元は源義朝の北の方だった常盤御前が、源氏のことなど忘れて楊弓に打ち込んでいると聞き、源氏の忠臣として憎しみを胸に、常盤を打ち据えます。すると常盤は、楊弓は清盛調伏のためと語って証拠を出しますが、それを見ていた勘解由が六波羅へ注進すると駆け出しました。その勘解由を斬り付けたのが、様子の一変した大蔵卿。元は源氏に縁ある者ながら、ゆえあってのつくり阿呆と身を明かした大蔵卿は、源氏の重宝友切丸を手に鬼次郎へ望みを託すと、源氏再興の時まではと、またつくり阿呆に戻るのでした。

 ――長成は公卿ですが、平家全盛の世にあって源氏に寄せる心を隠すために愚かな振りをしています。

 大蔵卿という高い位での阿呆ですので、ただただ阿呆というだけではいけません。愛嬌がなければ成立しませんし、品が大事だと思います。他人の話を聞いているようにすると、まともな人に見えてしまう。心が別なところにいっているように見せるのは、意識しないとできません。

 花道を入るときに長成は、鬼次郎を見て扇で半分顔を隠します。思いを表には出しませんが、そのときに、目をつぶるようにと叔父に教わりました。大蔵卿の本心が表現されている場面だと思います。

長成のせりふには調子がいる

 ――続いてが「奥殿」です。長成は御簾の後ろから逆臣の勘解由を長刀で斬り、「不忠の家来の成敗なるわ」と声を発して登場します。

 一番大事なのは影のひと言ですね。お客様には、長成が出てくるという、期待感を味わっていただきます。長成のせりふには調子(声量)がいりますし、あらゆる音を必要とします。芸の見せどころの一つだと思います。

 ――長刀の扱いはいかがでしょうか。

 長刀の名人、達人とまでは言ってはおりませんが、心得があるというところを、そのひと振りで見せなければいけません。舞台の屋体の中が実は狭いので、ちょっと位置が違うと、どこかにぶつけてしまいます。そこにも気を付けないといけません。絶対にぶつけることなく、鮮やかに扱うのが大事です。難しいところです。

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