歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



歌舞伎座「二月大歌舞伎」『一條大蔵譚』
知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 十代目松本幸四郎

『一條大蔵譚』と『熊谷陣屋』、二つの物語

 ――長成は阿呆と正気の間を行き来し、公卿言葉と武家言葉を自在に変化させます。見せ場の一つが、源為義や義朝の悲劇、そして牛若丸(義経)の母で自分の妻となった常盤御前への思いを語る「物語」です。

 公卿言葉と武家言葉が交じるのは、難しいですね。「物語」は、動きを一つひとつ大きくし、その場を再現しているように感じていただかないといけません。誰のことを語っているのか、どの場面を表現しているのかということを、義太夫の語りとせりふのとおりに、いかに伝えるかです。

 ――同じ2月公演の夜の部で演じられる『熊谷陣屋』の熊谷次郎直実にも「物語」の場面があります。

 熊谷は、平敦盛を助けるために、身替りとして息子の小次郎の命を奪っています。それを女房の相模には話すつもりではいましたが、敦盛の母、藤の方が陣屋にいるのは予想外でした。そこで、偽りではありますが、敦盛を討った経緯を語ろうということになります。

 『一條大蔵譚』の長成は逆に、語ることを前提に、御簾の奥から登場します。同じ「物語」でもそこが違います。

 ――「奥殿」では引き抜きもあります。

 難しいですが、歌舞伎の醍醐味ですので、鮮やかにできるように稽古したいです。

歌舞伎座「二月大歌舞伎」

平成30年2月1日(木)~25日(日)

『一條大蔵譚』
(いちじょうおおくらものがたり)

一條大蔵長成 染五郎改め十代目 松本  幸四郎
常盤御前 中村  時 蔵
お京 片岡  孝太郎
吉岡鬼次郎 尾上  松 緑
茶亭与市 嵐   橘三郎
女小姓 澤村  宗之助
八剣勘解由 中村  歌 六
鳴瀬 片岡  秀太郎
 

孤独感が際立つ長成

 ――長成はどんな人物だと思われますか。

 源氏の再興のために奔走している鬼次郎を頼もしく感じ、自分の本心を打ち明けます。ですが、鬼次郎を見ているうちに、何もできない自分の悲しさを感じ始めます。そして、最後は本心を押し隠し、再びつくり阿呆になります。「長成が本心を現すことはもう一生ないんだ」、ということを叔父に教えられました。

 鬼次郎に託す、ということだけではないんですよね。鬼次郎に「頼朝や牛若丸」に伝えてくれ、と頼む言葉が一つひとつ重い。鬼次郎に伝えた後に、孤独感が際立ってきます。

 ――つくり阿呆に戻っての「鼻の下の長成と笑わば笑え言えば言え、命長成り気も長成り、ただ楽しみは狂言舞」というせりふが印象的です。

 寂しいせりふですよね。つくり阿呆にならなければいけない。それに悲しみを込めてという言い方はしませんが、肚の中では泣いているというか、寂しさを感じているのだと思います。

 ――大蔵卿を得意とされた曾祖父様の初代吉右衛門は、『ハムレット』の要素もとり入れたとうかがったことがございます。幸四郎さんは『ハムレット』もなさっていますね(昭和62年11月三百人劇場)。

 同じような孤独感を感じますが、長成はハムレット以上の人物ではないかと思います。

前のページへ 1 2 3 4 次のページへ