歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」『弁天娘女男白浪』
今度の舞台を楽しく見るために

ようこそ歌舞伎へ 尾上菊五郎

立役と女方、究極の二刀流

 ――弁天小僧菊之助は回数を重ねられた当り役です。初演は五世菊五郎で、小道具の扱いなどに、代々の名優の工夫が息づいている演目でもあります。菊五郎さんは昭和40(1965)年6月の東横ホールで、22歳で初演されました。

 最初の頃は本当に大変でした。煙管(キセル)の扱い、万引きに見せかけるための緋鹿の子をどこで出すか、受け取った金をどこに入れるか。また、捨てぜりふが本当に難しく、つい現代語になってぺらぺらとしゃべり、あとでせりふがなくなって困ったこともあります。

 まだ完成ではありませんから、今回も稽古に入ってから感じるものがあると思います。

 ――弁天小僧は婚礼間近の美しい武家娘に化けて「浜松屋」を訪れ、強請(ゆすり)に失敗すると男の本性を現します。

『弁天娘女男白浪』(べんてんむすめめおのしらなみ)

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撮影:松竹写真室

 鎌倉雪の下にある大きな呉服店浜松屋へ、美しい娘が供の侍を連れて婚礼の品を求めにやって来ました。そこで万引き騒ぎとなり、証拠の品をたてに、番頭は算盤で娘の額を打ち据えますが、証拠が間違いとわかって、今度は侍が黙っていません。店の主人の幸兵衛は困り果て、百両で片をつけることにしました。ところが、玉島逸当と名のる侍が、娘は男で騙りであろうと詰め寄りました。ばれては仕方ないと娘は弁天小僧菊之助、供の侍は南郷力丸と名のり、二人とも店先で開き直る始末。幸兵衛がなだめてやっと帰らせました。
 稲瀬川の堤に現れたのは厳しい詮議を逃れようと、鎌倉を離れることにした盗賊の五人組。浜松屋で騙った二人と忠信利平、赤星十三郎、そして頭の日本駄右衛門はあの逸当です。駄右衛門は潔く名のりを上げ、四人も続いて討ちかかる捕手に立ち向かいました。そして、極楽寺の屋根に追い詰められた弁天は腹を切り、三人も絡め捕られ、最後の一人となった駄右衛門は極楽寺山門で、世に賢者といわれる青砥左衛門に縄をかけてくれと願い出るのでした。

 今はやりの究極の二刀流です。立役の部分がよくなると女方が気になるし、女方を一所懸命にやると立役が気になります。

 ――弁天小僧は青年ですね。

 弁天「小僧」ですからね。16、17歳の人間になりきらないといけません。きれいな形に見せようとすると、腰がメリメリいうほど痛いんです。弁天小僧にふさわしく見えるよう、ダイエットもしています。3月末から炭水化物を食べないようにして5キログラム体重を落としました。7、8キログラム落とすのが目標です。やせないと娘で出てきたときの帯も苦しいのでね。

考え込んで悩んだ時期も

 ――お若い頃と、現在とで演じるにあたり変化はおありでしょうか。

 非常に悩んだ時期もありました。30代までは勢いでやっていましたが、40代になり、「これでお客様が喜んでいらっしゃるのか、お客様に通じているのか」と考えてしまいました。世話物は相手によっても変化します。言葉のキャッチボールがうまく行かずに、自分のやり方が悪いのかと思い、深みにはまったこともあります。

 ――回数を重ねられることで、見えてくる部分もおありではないでしょうか。

 確かにそうですね。「やる」から「見せる」に変わりました。最初は、演じられることに喜んで興奮していました。それが、「自分の格好はいいのだろうか」「お客様からはどう見えるのだろう」と思うようになる。そういうことを気にし始めると、勉強することはいっぱいあります。

若い人に「前にお客様がいることをわかっているか」と口にすることがありますが、自分も若いときは、そうだったのだろうなと思います。

 ――このお芝居で大切なことは何だと思われますか。

 目で見ての美しさでしょうか。「浜松屋」「稲瀬川勢揃」「極楽寺屋根」「山門」。「きれいだな」とお客様が見てくださったら、成功ではと思います。

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