歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



巡業「松竹大歌舞伎」中央コース『人情噺文七元結』
知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 中村芝翫

中村屋の長兵衛と紀尾井町の長兵衛

 ――二世尾上松緑さん、十七世中村勘三郎さん。それぞれの長兵衛をどうご覧になりましたか。

 中村屋のおじさん(十七世勘三郎)の長兵衛は、普通の家に出入りするのではない、角海老さんのような趣味的な要素の強い、吉原の大籬(おおまがき)に出入りをしている左官屋さんに見えました。何カ月に一遍、大仕事をふっとするような職人さんという感じでしょうか。

 それに対して紀尾井町のおじさん(二世松緑)の長兵衛さんは、まじめな職人という感じでしたね。そういう人間性が見え隠れするのが、世話物の立役の大事なところなんじゃないかと思います。素が見えるように、こういう人なんだという背景が見えるようにしなければいけないと思います。

 ――芝翫さんはどちらになりますか。

 まだわかりませんが、どちらかといえば、僕は紀尾井町のおじさんのほうなのかなという気がします。中村屋のおじさんは、身体や雰囲気に、ドキッとするような色気がありました。中村屋のおじさんの長兵衛は、「大川端」で最初に文七とすれ違うとき、歩きながら、あれっという風に見るのがなんともいえませんでした。

 紀尾井町のおじさんはふっと見て、何かおかしいなと思ってストレートに行きますが、中村屋のおじさんは、ふっと見たとき、お客さんにも、何かおかしいんだなという感覚をすぐに与えるんですよね。

「松竹大歌舞伎」中央コース

平成30年6月30日(土)~7月29日(日)

『人情噺文七元結』
(にんじょうばなしぶんしちもっとい)

左官長兵衛 橋之助改め 中村  芝 翫
和泉屋手代文七 国 生改め 中村  橋之助 ☆
宗 生改め 中村  福之助 ★
鳶頭伊兵衛 宗 生改め 中村  福之助 ☆
国 生改め 中村  橋之助 ★
長兵衛女房お兼 芝喜松改め 中村  梅 花
角海老手代藤助 中村  吉之丞
角海老女房お駒 片岡  秀太郎
和泉屋清兵衛 中村  梅 玉

交互出演=★Aプロ、☆Bプロ それぞれの日程については公演情報でご確認ください。

これは喜劇ではなくて人情噺

 ――長兵衛は腕のいい職人です。演じられるときに心がけられていることはありますか。

 やっぱり芸術家なんです。見方が雑ではないんです。「角海老内証」に入るときも、決してへりくだるわけではないですが、お行儀を心得ている。人の話もちゃんと誠意をもって聞きます。人って自分でしゃべっているよりも、他人の話を聞くのが難しいのかな。角海老さんの話だとか、お久の話だとか、聞く体勢に人間性が出ると思います。

 喜劇にして、最後の「元の長兵衛内」でお兼を蹴飛ばしてひっくり返して何してと、笑いに持っていくのは簡単ですが、これは人情噺ですからね。天王寺屋のお兄さん(五世中村富十郎)がよくおっしゃっていました。「これは喜劇じゃないんだ。人情噺なんだからね」と。

 ――今回の公演では、文七と鳶頭を橋之助さんと福之助さんが交互に演じられますね。

 僕は鳶頭は勤めておりますが(平成5年10月歌舞伎座、平成7年7月中座)、文七の経験はございません。橋之助と福之助の兄弟二人、性格も違いますし、まったく異なる文七になるのではないかと思います。

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