一、双蝶々曲輪日記 引窓(ひきまど)
京都のほとり八幡の里に住む南与兵衛は、亡父の役職であった郷代官となり、その名も南方十次兵衛と改めました。今日は仲秋の名月とあって、十次兵衛の妻のお早や母のお幸がその準備をしているところへ、お幸の前夫との間の子の濡髪長五郎が訪ねて来ます。関取の濡髪は恩人を救うために人を殺め、今生の別れに実母のもとへやって来たのでした。
一方、十次兵衛に最初の役目として命じられたのは、その濡髪を捕らえることでした。そして十次兵衛が人相書をお幸に見せていたその時、手水鉢に濡髪の姿が映るので、十次兵衛は濡髪が我が家にいることを悟りますが、お早が引窓を閉めて部屋を暗くします。
お幸が人相書を売ってくれと申し出ると、これを聞いた十次兵衛は、大小を投げ捨て、刀が無ければ町人だと言い、お幸の望みにこたえます。さらに奥にいる濡髪に、抜け道をそれとなく教えて、見廻りの役に出かけて行きます。
やがてお幸は、濡髪を落ち延びさせようと、大前髪を剃り落としますが、高頬にある黒子だけは剃り落とすことが出来ません。その時、手裏剣が飛んできて......。
明り取りのための引窓が、大きな役割を果たすこの作品は、実の親子と生さぬ仲の親子の情愛が巧みに描かれた名作として知られています。
見どころは随所にありますが、なかでも十次兵衛が濡髪の姿に気付き、お早が引窓を閉める場面や、十次兵衛が濡髪に抜け道を教える場面などが、その眼目となっています。
錦秋の季節にふさわしい作品を、
染五郎初役の十次兵衛、
亀三郎の濡髪、
亀寿の平岡、
宗之助の三原、
鐵之助のお幸、
高麗蔵のお早という清新な配役で、お楽しみ頂きます。
二、歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)
加賀の国安宅。兄の源頼朝に追われ、山伏姿になって奥州に落ちて行く、源義経はじめ、武蔵坊弁慶、付き従う四天王ら一行は、富樫左衛門が警固する関所にさしかかりました。
弁慶が、東大寺への寄付を募る勧進の僧だと名乗ると、富樫はそれならば勧進の趣意を書いた勧進帳を見せろと迫ります。勧進の僧と偽ったものの、一行は勧進帳を持っていません。機転を利かした弁慶は、持っていた巻物を取り出し、勧進帳と称して読み上げます。富樫はなおも山伏の姿のいわれなどを問いかけます。しかしそれにすらすらと答える弁慶。富樫はすっかり信じて通行を許可しました。
ところが、強力(荷物持ち)に姿を変えて後からついてきた義経が怪しまれてしまいます。
絶体絶命。弁慶は疑いを晴らすため、大きな賭に出ました......。
いうまでもなく歌舞伎を代表する名作の一つであり、歌舞伎の演目の人気投票でも必ず上位をしめる、人気作です。悲劇の貴公子義経と、義経に最後まで従った弁慶のお話は、歌舞伎のみならずさまざまに描かれています。なかでも智仁勇兼ね備えた『勧進帳』の弁慶は、歌舞伎を代表する役柄であり、立役(男性の役)を志す歌舞伎俳優ならあこがれる、大役中の大役です。
今回は定評ある幸四郎の弁慶で歌舞伎の魅力をたっぷりとご堪能いただきます。
幸四郎は、全国の皆様に歌舞伎のすばらしさを感じていただきたいと、積極的に各地で勧進帳を上演してきました。
そして、いよいよ弁慶上演千回を目前にしていますが、一回一回を丁寧に積み重ねている幸四郎の舞台は、大きな感動を呼び起こすことでしょう。
さらに、今回の公演では染五郎が富樫左衛門を勤め、親子競演ならではの息のあった、緊迫感溢れる舞台となります。
また義経には高麗蔵、付き従う四天王には亀三郎、亀寿、宗之助、錦吾が出演するという、充実した配役でお目にかける『勧進帳』にどうぞご期待下さい。