「こいつぁ春から」山田洋次監督が出演

こいつぁ春から

 新春恒例、NHKによる初芝居生中継『こいつぁ春から』。今年は歌舞伎座『壽初春大歌舞伎』と大阪松竹座『壽初春大歌舞伎』初日の舞台が1月2日に放送され、初芝居の華やかな雰囲気がお茶の間に届けられました。

 さらに、今年は現在公開中の映画『武士の一分』の山田洋次監督がご出演。その生放送風景をちょっと取材してみました。

“歌舞伎と文楽をちゃんと勉強しなさい”と映画評論家の淀川長治さんに言われて歌舞伎を見るようになったと、山田監督。「それから勉強するつもりで、ここに通ううちに、だんだん本当に好きになってきてね、今は月に一度は見なきゃ気がすまない、みたいになりました。座席に座って、チョンと柝がなって、幕が開くと、さあ、楽しくなるぞ!って、なんともいえない気分ですね」。

 歌舞伎座『春興鏡獅子』の舞台に、「お正月って感じがしますね。勘三郎さんにとって特別な踊りだということが良く分かります。“入魂”って言葉があるけども、魂が入っているなぁ。すごい力」。とご感心の様子。

 舞台を映画化されたいと思いませんかという質問には、
「怪談の『真景累ケ淵』、『文七元結』これは落語のような人情喜劇ですよね。あるいは、『籠釣瓶花街酔醒』なんていう悲劇もいいですね。

 今、松竹では、「シネマ歌舞伎」といって、デジタルによって、映像と音をきわめて正確にクリアに録画・録音するという技術が開発されてるんですよ。しかも、客席の後ろのほうでは判らない、俳優の表情とか仕草が的確に見えるという意味では、舞台より迫力があるんです。汗から、荒い息から全部収録されますからね。僕の手でも撮りたいなと思ったりしてますよ」。

 現在公開中の『武士の一分』の話になると、
「主演の木村拓哉さんの役が、男の意地というか武士の意地をかけて最後決闘に行く。何のために武道の稽古をしているかというと、斬りたい相手がいる。本気で斬りたいのが、歌舞伎俳優の坂東三津五郎さん(笑)。
坂東三津五郎さんの役は、大変な敵役で、木村さんの妻を奪う男なんです。このキャスティングはとても悩みました。三津五郎さんだから良かったですね。これがもし、もっといかにも悪役という品の無い俳優がやったら、映画全体がとても下品になっちゃう。やはり、歌舞伎の俳優さんは特別ですよね。上品なんですね。台詞まわしも綺麗でね」。


 山田監督の映画に出演した歌舞伎俳優の話しになると、
「十三代目仁左衛門さん、橋之助さんとお父さんの芝翫さん、富十郎さん、幸四郎さん、信二郎さん、そして三津五郎さん…、皆さん独特の雰囲気をもっていらっしゃる。これがどうやって身に備わっていったか、一言じゃいえないんだろうけども、最終的には、気品というか品の良さっていうかな。これはおそらく、歌舞伎俳優に限らず、あらゆる俳優が目指す境地ですね。渥美清さんは寅さんという無教養なあまり賢くない男を演じていたけれども、とても品がありました。いつも僕は渥美さんを映しながら、この人は上品だなと思っていました。やはり優れた俳優というのはそういうものを会得していくんですね。気品っていうのは大事なんです。大事な事っていうかそれが究極のもんなんだなぁ。だから、そういう映画を作りたい」。

 番組では、『新春浅草歌舞伎』の舞台とその初日の鏡開きの様子も伝えられました。

 歌舞伎座2階のロビーに設けられたセットを前に、「大阪松竹座の『勧進帳』も飛んで行って観たいくらい」とおっしゃっていた山田監督。既に、1月下旬から、次の作品の撮影に入るご予定とか。

 歌舞伎・映画・俳優の楽しいお話、そして何より、山田監督のお人柄が伝わって、一層お正月らしい華やかな番組になりました。


こいつぁ春から

2007/01/09