錦之助 公文協中央コースへの思いを語る

 昨年4月、歌舞伎座で中村信二郎が二代目中村錦之助を襲名し、早くも1年が過ぎました。錦之助の名跡は、若き日に歌舞伎で修行を積み、その後映画、舞台で活躍した当代の叔父である萬屋錦之介の前名にあたります。この華やかで大きな名前を襲名し歌舞伎の大役に次々と挑んでいる二代目錦之助が全国公立文化施設協会主催中央コース松竹大歌舞伎で襲名披露を行います。

中村錦之助―――

 この度、公文協中央コースで、二代目中村錦之助襲名披露公演を開催させていただきます。錦之助という名前を継いでから1年2ヶ月が経ち、やっと違和感無く名乗れるようになって参りました。今回の巡業では、全国の方々に舞台を見ていただき、先代の映画スターの錦之介は良く知っているけれど二代目もいいじゃないか、と思っていただけるよう一生懸命に勤めたいと思っております。

 『毛谷村』の六助は、12年前、三越劇場で初めて勤めましたが、その時吉右衛門のお兄さんにご指導していただきました。この演目は私の曽祖父の三代目歌六、初代吉右衛門、そして当代吉右衛門へと受け継がれている、播磨屋家・萬屋家にとって、大切な演目の一つです。祖先が残してくれた演目を大事にして、また一から勉強し直して勤めたいと思っています。また、五月新橋演舞場の『毛谷村』では敵役の微塵弾正を勤めました。毎日舞台を見て、自分なりに研究していたので、初日を迎えるのが今から楽しみです。

 今回、相手役のお園を兄・時蔵が勤めます。兄はお園を何度も勤めていますので、引っ張ってもらいながらも自分なりの六助を作っていきたいと思っています。また、梅玉のお兄さんに襲名口上を述べていただきます。昨年の公文協西コースでも口上を述べていただいていて、大変ありがたいことだとおもっています。


襲名してから―――
 襲名前は舞台に出る寸前まで、"セリフはこう言わなくては、ここではこうしなくては..."ということばかり考えていました。こうして考えながら芝居をしていると、つい自分が出てしまいます。以前、叔父に「その役の気持ちになってお客様にアピールをしなくてはいけない」と言われたことがあって、最近は、役になりきって芝居を楽しみながらやろうと意識改革をしています。その事で、いい意味で力が抜けてきて、これも初代錦之介の叔父がどこかで見守っていてくれているからだと思っています。錦之助の名前を継いで本当に良かったと思っています。


六助を演じること―――
  毛谷村六助は、剣術の達人で、人間性がとても良く、皆から好かれますが、すぐに騙されてしまう人間です。そこを強調し上手く出すことができれば面白くなると思います。

 お園との掛け合いも楽しみです。理ばかりつめて行くと面白くないので、楽しんでできるように。さらに義太夫狂言は華やかさが必要なので、上手く義太夫に乗り、ある程度自分なりに義太夫と掛け合いながらできるようになれば良いですね。

 歌舞伎は、通し狂言のときのように、役の起承転結を考え、性根を踏まえて勤めると芝居の奥行きも深くなると思います。六助も前段での出来事などを思い浮かべながら演じるつもりです。最近はどの役を演じるときも、そういう部分を掘り下げて研究するようにしています。


兄との共演―――
 父が早くに亡くなっておりますから、兄は父親代わりでもあり、その分弟を見る目も厳しい面がありました。そのおかげで今の私がここまで来れたのだと思っています。兄に及第点がもらえるようにがんばります(笑)


中央コースの印象、楽しみ―――
 古い芝居小屋は雰囲気があって大好きなので、秋田の康楽館に伺えるのも楽しみです。岐阜は母方の叔父の出身地ですし、鹿児島には妻の実家があります。私事ですが、親戚のいるところで襲名披露ができるのは大変ありがたいことです。昨年の12月に京都南座で襲名披露をさせていただきましたが、大阪はまだでしたので、今回大阪の浪切ホールで公演が出来ることも嬉しく思っています。

 巡業でまわる町のお客様の中には、歌舞伎に触れる機会の少ない方々もいらっしゃると思います。街中にポスターを貼って待ち望んでくださっている方もたくさんいらっしゃいます。そんな方々のためにも、どうやったら楽しんでいただけるのかを考えて、最後に「ああ、楽しかった!」と言って劇場を後にしていただけるように一生懸命勤めたいと思っています。

公演情報はこちらをご覧下さい。
全国公立文化施設協会主催中央コース 松竹大歌舞伎

中村錦之助

2008/06/26