9月三響會 増上寺公演への思い

9月三響會 増上寺公演への思い

 9月11日(金)東京・増上寺で開催される「十一世田中傳左衛門十三回忌追善 三響會」にむけて、亀井広忠、田中傳左衛門、田中傳次郎の三兄弟が公演への思いを語りました。

亀井広忠―――
亀井広忠 増上寺で十一世田中傳左衛門十三回忌追善の三響會公演を催させていただくことになりました。今回の演目は『若菜摘』、能と舞踊による『江口』、能と歌舞伎による『羽衣』。今まで三響會というと、能と歌舞伎による『石橋』や『船弁慶』など気迫を全面に出しスピード感溢れる曲をお届けすることが多かったのですが、今回はいつにも増して音楽的な内面の充実をはかった渋めの曲目設定で、三響會でもこういう静かな音楽ができるんだという事を皆様にお届けしたいと思っています(笑)。

 さらに、今回は我々三兄弟の母親である、田中佐太郎に三響會に初めて出演していただきます。親と共に孫の手によって祖父の追善公演をさせていただくのは、非常に意味のあることです。追善色の強い曲選定でお届けする三響會を、ぜひお楽しみ頂きたいと思っています。


田中傳左衛門―――
田中傳左衛門 祖父、十一世田中傳左衛門が亡くなったのが平成9年3月、第1回三響會がその秋に開催されましたので、ともに同じ年月を重ねている事になります。

 追善は、先祖の供養をすることにより、当代やそれ以降の者が、今後名前や立場をどういう方向に進めたいのかということを世に発表する場であると思っています。

 祖父が倒れて以来、とても大きな名跡である「傳左衛門」を継承することのプレッシャーの中で生き続け、2004年に襲名してからは、それがさらに大きなものになりました。襲名以来、初めて我々の手で追善をさせていただく今回の公演が、自分の中で一つの区切りとなり、傳左衛門という名前が徐々に自分のものになっていく、今回の三響會はそうした位置づけにしたいと思っております。


田中傳次郎―――
田中傳次郎 祖父の歿後、同じ年に三響會がスタートして今年で12年。20代のころは少し力任せだった演奏が、全員30代になり序々に落ち着きを持ちはじめました。これからの三響會は、皆が40代になるまでに勉強しなければならない事を披露する時期だと思っています。

 会場となる増上寺は東京タワーを背に、現在と過去が融合している異次元空間のような場所です。その本堂での公演で、偶然にも『若菜摘』では明神様、『江口』では普賢菩薩、『羽衣』では天女と、神懸かり的な演目が並びました。まさに特別な一時になると思っています。

 三響會ではいつも今の時代にやりたいと思う事に挑戦させていただいています。それは両親や祖父の力があってのこと、ありがたいという気持ちを忘れずに続けていきたいと思っています。


三響會の魅力―――

広忠―――
 三響會では、レパートリーを創造する気持ちを大切にしています。今回、能と舞踊による『江口』では、能の『江口』と長唄の『時雨西行』を融合させています。2つの演目は少し時代設定が違うのですが、歌詞は同じ部分も多く、いかに音楽的に無理なく融合できるかが重要になってきます。いままでの『獅子』や『船弁慶』とは曲種の違う新しい作品、こういうものにチャレンジできる事を嬉しく思っています。


傳左衛門―――
 異なったジャンル同士の融合の場合、他人同士ですとなかなか言えない事も出てきますが、我々の場合は遠慮をすることもなく、お互いの立場や曲の特徴も理解しあっているつもりですので、それを踏まえたうえでのディスカッションが行え、より良い状況を生んでいると思っています。公演を重ねる毎に理解も深まり、出演して下さる方が増え、大変嬉しいことだと思っています。


傳次郎―――
 三響會には古典の新しい形を観ていただくというコンセプトがあります。今回演奏する『若菜摘』は長唄の演奏会でも演奏される機会の少ない曲です。そういった古曲を大切にして、古典にこだわっていく事で、お客様に古典は見方によっては新しいということに気づいていただきたいと思っています。


祖父の思い出―――

広忠―――
 一緒にお寺に座禅をくみに泊まりがけで連れて行っていただいた事もありましたし、6歳の6月6日の午後6時に鼓の手ほどきを受けたことも覚えています。祖父は能楽師としての修行もしてきた方なので良く能を観ていて、昔の名人の話を沢山聞かせてくれました。私も小学生でしたが、そういう話を聞くのをいつも楽しみにしていました。


傳左衛門―――
 早くから舞台に立たせていただき、数々の名優とご一緒させていただきましたが、その方々から祖父のやり方を尋ねられ、その話を祖父に伺いにいった事、自分で疑問に思い祖父に尋ね教えていただいた事、それらは今、私にとって大変貴重な財産となっています。


傳次郎―――
 祖父が倒れてから、公の場に出るときは、どこに行くにもお手引きをさせていただきました。祖父の最後の舞台となった国立小劇場での演奏会で、祖父と母と我々三兄弟、そして亡くなった田中傳兵衛らと共に舞台に立てたことは一番の思い出です。

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2009/08/27