新春浅草歌舞伎・二月花形歌舞伎出演者が抱負を語る

「新春浅草歌舞伎」チラシ

 今年もユニークな「新春浅草歌舞伎」のチラシができあがりました!

 初春浅草の風物詩として、すっかり定着した「新春浅草歌舞伎」。2008年は2月には同じ顔ぶれが博多座に登場。「二月花形歌舞伎」の公演を行うと大きな話題になっています。

 注目の公演に先立ち、新春浅草歌舞伎と二月花形歌舞伎の出演者が取材会を開き、 それぞれ抱負を語りました。

 

愛之助―――

片岡愛之助

 「新春浅草歌舞伎」に出演させていただけること、有難く嬉しく思っております。序幕の『傾城反魂香』では、狩野雅楽之助を本興行で初めて勤めさせていただきます。『弁天娘女男白浪』では日本駄右衛門を勤めます。実はこの歳でこれが2回目のお役なんです。思いもよらず、本当に嬉しいやら、恐ろしいやら(笑)。

 夜の部は『与話情浮名横櫛』の与三郎で初役でございます。私は大阪の人間なので、みなさんが普段苦労してらっしゃる上方の言葉は平気なのですが、江戸弁というのは全く喋れないもので、捨てゼリフがメロメロになるんじゃないかなと・・・気を引き締めて勤めたいと思っています。

 2月の博多座は、『義経千本桜』の相模五郎、亀治郎さんとの『団子売』。それから『鳴神』は本役では初役でございます。本年(2007年)7月、大阪松竹座で代役でさせていただいたのですが、がむしゃらで、何がなにやら判らないうちに終わってしまったので、今回はきちんと習って勤めたいと思っています。

獅童―――

中村獅童

 おかげさまで、「新春浅草歌舞伎」に出演させて頂き8年目を迎え、序々に若い世代のお客様にも来ていただけるようにもなりました。始まった頃は、本当に客席が寂しくて、「来年はもっと一杯にしたいね」って、いつもこの仲間たちと夢を語り合っていました。

 最近ようやくこの公演も根付いてきて、浅草で歌舞伎を見始めた、当初は歌舞伎初心者だったお客様からも、「今度は、獅童さんのこういう役を見たい」というような手紙をいただくようになりました。お互いに1年1年歳をとって来たような、そこがまた浅草の良いところだと思っています。

 そんな中、地方にいらっしゃる若い学生さんたちから「東京で話題になっている舞台だから見に行きたいけれど、交通費・宿泊代などを考えると見に行けない」っていう話をうかがっていました。僕らの中でも、「いつか、1月浅草の後、2月はどこかに行きたいね」って話をしていて、こういったファンの方たちの声が今回の博多座で公演させていただく原動力になったと感じています。非常にありがたいと思っています。

 博多でもこういった若手の歌舞伎の公演が序々に根付いていったらいいなと思っています。なかなか普段できないような大きなお役を一年の始まりにできるのはありがたいことですし、とにかく若手公演ですから、舞台の上で火花を散らせて、一生懸命体当たりでやっていきたいと思っています。

勘太郎―――

中村勘太郎

 このメンバーでの「新春浅草歌舞伎」も8年目を迎えることができました。本当に1年目は空席が多くて、僕たちも悔しかったです。

 それから、毎年毎年、多くのお客様が来てくださるようになって、大変ありがたいと思っています。でも、その状況に甘えず、危機感をもって良い芝居を作っていかないとだめだと改めて思っています。

 その時に、博多の話をいただきました。この大好きな浅草歌舞伎のメンバーで、いつかは地方に行きたいという夢が、数年前からあったのですが、それが、やっと叶うことになって本当に幸せです。

 浅草ではまず『傾城反魂香』の又平。実は僕『傾城反魂香』というと、“おとく”ばかり見てました。まさか又平をやるとは思いませんでした。大好きな芝居です、亀治郎さんとタッグを組んで、いい夫婦ができたらいいなと思っています。

 『弁天娘女男白浪』の“稲瀬川勢揃い”に出させていただくのは、僕が8歳のとき以来、同じ赤星十三郎をやらせていただきました。それ以来なので、とても緊張すると思います。

 夜の部は『金閣寺』の此下東吉。毎日のようにセリフを言っていないと追いつかないっていうくらい難しい役だと感じています。

 近年に無い、重い演目が揃っています。浅草をご贔屓にしてくださったお客様も目が肥えてきて、そういう演目を楽しみにしてくださっているのだと思います。新たに浅草を見に来てくださるお客様にも、The歌舞伎、これが歌舞伎の重さなんだというものをお見せできるように稽古をしていきたいと思っています。

 博多座では、昼の部『義経千本桜 渡海屋・大物浦』、夜の部の『菅原伝授手習鑑 車引』、『鳴神』、『蜘蛛絲梓弦』。これは以前浅草でも上演しているもので、さらにパワーアップしたものを博多のお客様にご覧いただけと思っております。

 そして、『団子売』と『高坏』という踊り。『高坏』は初めて踊らせていただきますが、父(十八代目勘三郎)が大事にしている踊りです。下駄のところが注目されますが、実は、お酒を飲んで桜のもとで気持ちよく踊っている、そうした雰囲気を出すような事が本当は難しい。これも稽古をしなければいけないなとおもって。

 博多は若手のパワーやエネルギーがぎっしり詰まった演目ばかりです。2月は寒いと思いますが、博多座の場内が暑くなるようなお芝居をしたいと思っています。

七之助―――

中村七之助

 浅草はおかげさまで公演が定着して、お客様が入ってくださるようになりました。このメンバーで博多座に伺うのは初めてです。どうなるかわからず、本当に不安でいっぱいです。チラシに“お願いだから、来て下さい”って書こうかというくらい・・・。

 浅草では、『弁天娘女男白浪』。弁天小僧菊之助は20歳の時にやらせていただきましたが、当時まわりはほとんど先輩方で、その方々の大きな懐のなかでなんとか若さで勤めました。でも本当は今回のように同じ年代で“仲間”という感じを出せたらお客様にはわかりやすいのではないかなと思っています。どうなるかすごく楽しみです。

 そして『与話情浮名横櫛』。まさかお富をやれるとは思っていませんでした。見ればみるほど難しい芝居です。女方の一から学びたいと思っています。

2月の博多座、最初は『義経千本桜 渡海屋・大物浦』の典侍の局。これは本当にやりたかった役で、今年念願叶ってやらせていただきました。毎日毎日命を削ると言っては大げさかもしれませんが、そういう気持ちで勤めました。来年の2月、こんなに早く2度目をやらせていただけるのはとてもうれしく、今回は自分の色をちょっとずつ出していけたらいいなと思っています。

 そして『鳴神』。この雲の絶間姫が決まったとき亀治郎さんが大喜びいたしまして、「良かった。この苦しさを分かち合える人がもう一人できた」って(笑)。

亀鶴―――

中村亀鶴

 「新春浅草歌舞伎」のお客さんは、他とはまるで違うような感じがします。とても歌舞伎を楽しんでいらして、それが歌舞伎本来のあるべき姿だと感じています。今回も出演できるのがすごく嬉しいです。

 今回の役は、『金閣寺』の慶寿院尼という位の高い女方もあり、『源氏店』の蝙蝠安というちょっときたない役(笑)もあり、そして『浜松屋』ではすっきりした鳶とバラエティに富んでいます。たとえば、50歳や60歳の役を若い役者が演じたり、その逆があったり、そしてそれがそのように見えるというのが歌舞伎の面白いところですし、また、そう演じることができれば良いなと思っています。

 そして、博多座。こちらもいろんな役を勤めます。『義経千本桜 渡海屋・大物浦』では入江丹蔵。これは今年愛之助さんとのコンビで相模五郎を演じましたが、今回の配役はその逆。少し気が楽かなと思っています。

 そして、『高坏』の大名。琴平で勘三郎さんの舞台を毎日見てました。新しい松羽目物で、今、古典になりつつある作品です。正しく演じたいと思っています。

 『蜘蛛絲梓弦』。これは、浅草で亀治郎さんの舞台をワクワクしながら拝見していました。坂田金時ですから楽しく子供に戻った気持ちで演じたいと思っています。

男女蔵―――

市川男女蔵

 浅草では、『傾城反魂香』で土佐将監。今年もお爺さん役です(笑)。またお爺さん役・・・浅草に来たんだなと思っています。

 2月の博多では、今年演じました『義経千本桜 渡海屋・大物浦』の弁慶をやらせていただきます。また、『車引』は、時平公という位の高いお役です。これらは、父(四代目左團次)が勤めている役なので、よく見ていますが、見るのとやるのでは大違いです。心を引き締めて勤めたいとおもっています。

 浅草歌舞伎出演も8年目になり、「1月は浅草へ行こうよ」ってお客様がすごく増えました。歌舞伎の入門編という意味合いだけではなく、僕たちの歌舞伎を作っていこうという意識を強く持って勤めないといけない状況になってきたと思っています。そして、2月の博多座でもお客様によろこんでいただき、来年、「また2月あいつらが来るよ、見に行こうぜ」と言っていただけるように、仲の良いメンバーで、楽しみながら力をあわせて一生懸命つとめたいと思っています。

亀治郎―――

市川亀治郎

 平成19年は大河ドラマで1年間舞台を離れる機会が多かったのですが、1年ぶりに古典歌舞伎で浅草に帰って参ります。全て初役です。

 2月は「浅草以外で“やりたいやりたい”」と言い続け、ようやく浅草のメンバーで博多座に呼んでいただける事になりました。浅草でご好評いただいた『蜘蛛絲梓弦(くものいとあずさのゆみはり)』を再演できることも非常にうれしく、また久しぶりに気心知れた仲間と芝居が出来ることも楽しみにしております。

 浅草、『傾城反魂香』では、おとくで出させていただきます。伯父の猿之助が又平の時に、今の勘三郎さんが、おとくで出てらっしゃったので、今回はその逆バージョンのように、勘太郎くんが又平で私がおとく。とても良いコンビになるだろうと思っていて、僕自身も楽しみにしています。

 『金閣寺』では、雪姫を勤めます。11月に巡業で勤めた『奥州安達原』の袖萩のように、激情にかられる女性にくらべると、お姫様役は激しい動きもできないし、その中でお芝居をしなければならないので、そこが一番難しいのだと思います。これは、京屋(四代目雀右衛門)のおじさんに習います。自分の役者としての財産を増やしていただくことが出来るので、大変感謝しております。

 『弁天娘女男白浪』では、忠信利平を勤めます。先輩方もそうしていらっしゃいますが、若い頃は、立ち役も女方もいろんな役を勉強しなきゃいけない。この浅草のメンバーは、そういう意味で守備範囲がわりと広い人たちばかりだと思うんです。1日のうちで、全然違う役をやるというのも歌舞伎のひとつの面白いところ。観客の人にも喜んでいただけるのではないでしょうか。

 博多座での『蜘蛛絲梓弦』は再演ですが、僕は絶対に同じようにはやらないので、浅草とはまた違ったものをお見せできると思っています。『義経千本桜』もあるし、歌舞伎十八番物や荒事もあり、それに舞踊が2つ。『団子売』は江戸の風俗に題材をとった、歌舞伎独特の本当に良い作品だと思うし、『高坏』は古典にあるものですが、それを作り替えて新しいアプローチで見せていて、同じ舞踊でもそれぞれ見せ方が違っています。それぞれ非常に良い演目が揃っていると思います。

一年の始まりとしての浅草、これから―――

愛之助―――
 浅草に出演しない年は、大阪松竹座に出演させていただいておりました。大阪の「寿初春大歌舞伎」もすばらしいのですが、同世代の人たちとの芝居は、励みになり、プレッシャーになり、時には舞台の上で火花を散らします。そして何より相談しながらお芝居作りができるというのはとても良い勉強になっています。本当に幸せな一年のスタートだと思っています。

獅童―――
 お正月からこうして大役をやらせていただけるというのは、本当に幸せなことです。それには、相当な心構えが必要で、世の中がクリスマス・年の瀬だという12月は、毎年心臓が口から飛び出すくらい緊張しています。役者としてこの緊張感に体当たりでぶつかって、壁を乗り越えなくてはいけないというのは、一年の中でもそうそうあることではありません。

 浅草の仲間が、みんなそれぞれ一年間違うところで活動し、お正月にこうやって集まるので、お互いがお互いを見合う場所になっています。そうやって、毎年毎年緊張感を持つことで、熱い魂を持ち続けることができるようになっています。

勘太郎―――
 浅草が1年のスタートというよりも、12月が年末ではなく、1月の浅草が1年間の締めくくりになっているような気がしてます。この1年、自分が経験したこと、感じたこと、稽古した事を込めて、大きい役を勤めさせていただく事ができるので、1月が“俺の去年1年間はこうだった”という思いをぶつける月になっています。

 今年も、父の襲名やニューヨーク公演、色々なものがありました。その経験、感じた空気、そういうものをぶつけて、大きい役に挑んでいきたいと思っています。

新春浅草歌舞伎・二月花形歌舞伎出演者が抱負を語る七之助―――
 僕がいろんな役をやらせていただくようになったのは、この浅草歌舞伎からです。諸先輩がたの芝居を見るとすごさを感じるのですが、その役を自分がやってみると、さらに先輩との距離を感じます。1年の始まりに、自分の力の無さを感じるのは、決して悪い刺激ではありません。

 歌舞伎の世界では、12月31日と1月1日はお休みで、舞台稽古の後2日空いて初日っていうのが・・・しかも初役で大役というのは、とてつもなく嫌です。なぜ1日が初日じゃないのって毎回思います(笑)。そして2月は博多で、新しい場所でチャレンジするという精神。来年は本当にいい一年になりそうな予感がいたします。

亀鶴―――
 お正月から、大好きな舞台に出させていただくのが何より嬉しいです。これで一年がんばっていこう、来年はまた別の役を勤めたい、などと思いながらお正月を迎えられるのは、役者として本当に幸せなことです。そして、2月の博多座にお正月の浅草の気持ちを持っていける来年はさらに幸せです。

新春浅草歌舞伎・二月花形歌舞伎出演者が抱負を語る男女蔵―――
 1月、2月と、この大好きなメンバーで歌舞伎をできる機会が増えてとても幸せです。この幸せな気持ちを無くしたくないのなら、自分たちが一生懸命勤めて、また、来年もこの機会を作らなくてはなりません。

 他の劇場でも歌舞伎が上演されています。それに負けないよう、“このメンバーでもっともっとパワーアップしていきたい”と強く思いながら新年を迎えられるのは本当に幸せなことです。浅草歌舞伎が始まってとても心地よく一年が始まります。

亀治郎―――
 今のメンバーになる前、1999年の浅草で『寺子屋』の千代と『鳴神』の雲の絶間姫をやらせていただいたのですが、それが大きいお役を先輩に習って勤めるという始まりだったんです。芝翫のおじさんに習ったのですが、大役をやるのも初めてだったし、そこが自分にとって一つの出発点だったという気がしています。

 浅草に出ていなかったら、これほど大役をやらせていただく機会もなかったと思います。そういう意味で大役に挑戦することができて、ある程度の役が来てもさほど動じなくなった、ということはとても大きいと思います。5役を立て続けにやったことありますし、強靱な体力も得られたし、集中力も得られたし、本当に鍛えられたと感じています。

 11月の巡業で梅枝君とご一緒しましたが、ひとまわり(12歳)違いました(笑)。僕らも二十歳の頃から浅草で勉強させてもらっていたので、彼らの事を考えると、これからは次の世代が主役を勤め、僕らはサポートできる役で支えていけたらいいなとも思っています。芝居は1人ではできないから、次の世代を盛り上げていくのも大事な事だと思っています。

浅草公会堂「新春浅草歌舞伎」

 ポスターもやっぱりユニーク!

公演情報はこちらをご覧ください。
1月浅草公会堂「新春浅草歌舞伎」
2月博多座「二月花形歌舞伎」

2007/12/11