市川右近が語る『獨道中五十三驛』

 3月新橋演舞場では、澤瀉屋一門による、弥生花形歌舞伎 『猿之助十八番の内 獨道中五十三驛』が上演されます。歌舞伎美人では出演される俳優の方々に、みどころをお伺いいたしました。第一回目は、市川右近さんに作品の魅力をご紹介していただきます。

右近

 今回、師匠猿之助が初演からなさっていた役々を勤めさせていただけることを、とても嬉しく思っています。

 まず見どころの一つ"十二役の早替り"について。最近は映像社会でCGなども良く出来ているせいか、お客様もあまり上手く早替りをしてしまうと、似たような俳優が出てきたのかと錯覚してしまい、驚いていただけないということがあります。
 師匠も数々の舞台で早替りを勤めて気づかれた事なのですが、早替りは上手く変わってしまうという事だけでなく、舞台に猿之助なり、右近なり、俳優が一貫して存在していないと妙味が無くなってしまいます。
 かといって、お客様に媚びた感じを与えたり、あえて強調する必要はないのですが、早替りにどこか手作り的なところがあることで、お客様もゆったりとした豊かな気持ちでご覧いただけますし、それが、江戸歌舞伎の発想の豊かさ、美意識の面白さなのだと思います。

 他にも、このお芝居には様々な演目の色々な場面がパロディーとして登場します。"道哲"や"お六"、"弁天小僧"まで出てきます。その一役一役のキャラクター性を出来る限り出すことで、本編からのパロディーであるということにお客様に気づいていただけるようにしたいと思っています。そういったところを色濃く出すことで、舞台にも面白みが増し、きっと歌舞伎通のお客様にも喜んでいただけると思っています。

 化け猫の宙乗りも見どころの一つです。師匠の猿之助の真骨頂であった、お三婆さんの化け猫、妖気漂う中にもどこか愛嬌のあるように勤めたいと思っています。

 このように『獨道中五十三驛』は見どころが盛りだくさんのお芝居です。初演のとき、初日の終演時間が10時半位になってしまい、当時高校3年生だった私の役は早々にカットされてしまいました(笑)。
 上演のたびに、どの場面を入れていこうかと工夫を繰り返し、再演のたびに姿を変えてきました。一昨年、名古屋の中日劇場で上演させていただいた際には、より娯楽性豊かな場面を多く連ねて、エンターテイメント性を強くしたことで、お客様にもとても喜んでいただきました。

 こうして変化を続けている『獨道中五十三驛』ですが、江戸時代から続く歌舞伎ケレンの持つ"お祭りのような魂の燃え上がり"、そのみずみずしいエネルギーは初演から変わらずにこのお芝居の中に生き続けています。お客様には、江戸時代にフラッシュバックしていただきながら、お芝居を楽しんでいただけたら嬉しく思います。

公演情報はこちらをご覧ください。

2009/02/09