歌舞伎座さよなら公演六月大歌舞伎 片岡仁左衛門一世一代『女殺油地獄』への思い

 歌舞伎座さよなら公演六月大歌舞伎、昼の部で『女殺油地獄』を一世一代にて勤める片岡仁左衛門が、舞台への思いを語りました。

歌舞伎座さよなら公演六月大歌舞伎 仁左衛門『女殺油地獄』への思い 平成10年歌舞伎座で『女殺油地獄』の与兵衛を勤めさせていただいた時、これが最後という思いでおりましたが、皆様にもう一度とお声を掛けていただき、この度改めて一世一代で勤めさせていただくことになりました。

 『吉田屋』の伊左衛門や『封印切』の忠兵衛などは、若いときよりも歳を重ね色々な芸が身についてきた方が良い作品となります。でも『女殺油地獄』の与兵衛は、たとえば現代の扮装でやってもおかしくないお芝居ですし、私の中では、ある程度の若さが必要なお役だと思っています。

 与兵衛は、殺しの間の心理の変化をいかに演じていくかというところが面白いんです。最初は無我夢中で震えている、そのうち段々と落ち着いてきて、そうすると今度は殺しを楽しみ出す、最後にお吉が死んでしまうと逆に怖がり出す。

 口から出任せを言っても与兵衛自身は嘘をついている気はないんです。その時の気分で心持ちがころころ変わっているだけ。さらに、ツッパリ屋でとにかく見栄ばっかり。そして捕まってから、殺した人の周りに悲しむ人がいるということにようやく気がつく、今の犯罪者にもそういうところがあるようですね。

 『女殺油地獄』を現代版に書き換える方の中には、お吉と与兵衛は精神的な恋愛がなくてはいけないとおっしゃる方がいますが、私のやり方はそうではありません。私たちが子供の頃、関西に住んでいる近所のおばさんやお姉さんとは、それこそ家族のような付き合いをしていました。二人は特に油屋の仲間ですし、関西に住んでいる方ならそういった間柄も、よくおわかりになると思います。

 回数をかさねることで、色々な事に気がつき、与兵衛の気持ちも良く理解できています。現代の青年にも通じるものの多いお芝居ですが現代劇ではやってはいけない、大阪のお芝居の芸とリアルの兼ね合いをいかに表現していくかが大切だと思っています。

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2009/05/26