歌舞伎座さよなら公演七月大歌舞伎 玉三郎、海老蔵公演への思い

歌舞伎座さよなら公演七月大歌舞伎、玉三郎・海老蔵公演への思い

 歌舞伎座さよなら公演七月大歌舞伎に出演する、坂東玉三郎と市川海老蔵が公演への思いを語りました。

坂東玉三郎
 歌舞伎座さよなら公演で"鏡花物"をというお話をいただき、ありがたく思っております。今回は、鏡花の2作品に加え『五重塔』『夏祭浪花鑑』という演目が揃い、我當さんをはじめ、獅童さん、海老蔵さん、勘太郎さんとご一緒できることを嬉しく思っております。

 鏡花の魅力は言葉の綺麗さもさることながら、鏡花先生の心の潔癖さにあるのではないでしょうか。清らかさというか、ある種色々な経験を踏んだ中での無垢な感覚、そういうものが魅力だと思っています。『海神別荘』で美女は、海の中の常識を受け入れられるか試され、命がけで公子が言ってくれたことに感動し、公子の中に清らかな魂を見つけます。『天守物語』では、富姫が天守の常識にあうかどうか図書之助を試しています。図書之助は下の世界の人々に追い詰められて他動的に理解していきますが、実は富姫も自分では解脱できないんです。そこが面白いところですね。

 歌舞伎座は大きい劇場ですので、鏡花物の場合、歌舞伎座の枠組みにいれる演出を考えます。その結果『海神別荘』はスケール感が出てきましたし、『天守物語』も世界観がよく出ています。実はどちらも舞台の前の方で演じて、密度を濃くしたものにしています。さらに、歌舞伎座の持つ"木肌"の感じが、劇場全体を"天守"のように感じさせてくれると思います。


市川海老蔵
 鏡花の作品は2年ぶりになります。2年という時間を重ねることによって『海神別荘』での心の豊かさ、公子が海中で持っている常識というものが、以前に比べ理解できています。『天守物語』の図書之助は、無垢な心を持っているので、初演のころの自分に負けないように頑張るというのが一番の課題です。富姫との出会いはハプニングですから、出合った瞬間、対峙した感覚を大事にしたいと思っています。

 役でいうと、図書之助のほうが入りやすいところがあります。セリフも端的な言葉で感覚が人間に近いですし、富姫とパッとひかれあうという気持ちも良く分かります。それに対して、公子は彼自身が海で、彼の度量、器というものを理解するというのは、かなり難しいことだと思いますが、最近、公子のセリフを口にして反復し、光景が少しずつ見えてきているので、きっと以前より良いものになるのではないかと思っています。


泉鏡花作品を続ける事―――
玉三郎
 泉鏡花先生の作品は、僕にとって、なにか水浴びをしたような清々しい感覚を味わえます。先生の言葉を口にしながら幕が閉まると、肉体的には疲れていても、自分の気持ちが浄化されるような感覚があります。その清涼感が毎回あるので、続けていられるのだと思います。


お互いの共演について―――
玉三郎
海老蔵さんとは、小さいときからご一緒させていただいているので、舞台でどういう風に考えているか、どういう状況か、気持ちが理解できているのだと思います。お相手させていただいくことを幸せに思っています。そして公子、ピッタリだと思います(笑)。

海老蔵
 玉三郎さんとの共演がきっかけで、泉鏡花と出合うことになり、いま泉鏡花は玉三郎さんを通してしか感じられない程です。19歳で図書之助を初めて勤めたときの舞台での圧倒的な存在感、美しさは想像を絶するほどで、それが今も続いています。共演を通じてお兄さんからうかがうアプローチの仕方などは判りやすく、いつも緊張しますが、修行の場、勉強の場として、心地よく勤めさせていただいています。


『夏祭浪花鑑』―――
海老蔵
 昨年、こんぴら歌舞伎で勤めさせていただきましたが、今回獅童さん、勘太郎さんとご一緒できることを楽しみにしています。団七はちょっと駄目なところがある青年ですが、かっこいい男でもあります。歌舞伎的な要素が沢山あり、勉強にもなる作品です。関西弁では苦労しますが、リアルさだけではなく、古典としての表現ができるように勤めたいと思っています。

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2009/06/19