勘三郎、山田洋次監督が「赤坂大歌舞伎」での意気込みを語りました

勘三郎「赤坂大歌舞伎」での意気込みを語りました

▲ 赤坂芸妓と一緒に撮影に応じる山田洋次監督と中村勘三郎

 2008年9月に赤坂ACTシアターで上演された「赤坂大歌舞伎」。歌舞伎通の方はもちろん、これまで歌舞伎を観たことがなかった方々も多く劇場を訪れ、客席は大変な盛り上がりを見せました。
 それから2年、中村勘三郎が赤坂に再び登場します。今回の作品は三遊亭円朝による落語を原作とし、山田洋次監督が補綴を勤める、笑いあり、涙ありの『人情噺文七元結』、そして歌舞伎舞踊『鷺娘』。公演に先立ち、山田洋次監督、中村勘三郎が意気込みを語りました。

山田洋次監督
 円朝という天才のもとに、ある日神様がおりてきて、一つの素晴らしい種を与えた・・・その結果生まれたのが『人情噺文七元結』。それくらいこの作品は素晴らしく、歴史的な作品だと思っています。主人公の長兵衛が娘を売ったお金五十両を手に帰る途中、五十両の為に身投げしようとしている若者に会い、それをくれてやる。若者に会ったというのが"核"、そういう極めてシンプルで、いろんな問題を秘めた核を掴んで表現したというのが、この作品の円朝のすごさであり、この作品が芝居になり今日まで愛されている秘密だと思っています。

 平成19年に新橋演舞場で勘三郎さんとこの『人情噺文七元結』を創り上げたときの脚本で、今回赤坂で上演して下さるということになり、とても嬉しいです。補綴というのは、言ってみれば脚本に手を入れるということです。僕は『人情噺文七元結』という芝居が好きですから見る度にどうしても気になるところがあり、その事を勘三郎さんに相談したら、「ぜひ直して下さい」とおっしゃる・・・ポイントは最後の終幕のところ。従来よりもかなり陽気になっているし、それが悲しみとも喜びとも言えない涙になって、もっともっと笑える作品になっています。今回はそれにいっそう磨きを掛け、さらに新しい『人情噺文七元結』にしたいと思っています。

 赤坂ACTシアターは赤坂というに盛り場に囲まれた劇場です。もともと芝居小屋というのはこういうところにあったんじゃないでしょうか。喫茶店やラーメン屋がすぐ近くにあって、そこからふらりと劇場に寄ることが出来る、いかにも芝居小屋らしくていいなと思います。街が違えば、お客様も違うし、反応も違う、そういうものに影響されて芝居も変わってくるだろうし・・・芝居は生ものですね。そしてお客様には、うんと楽しんでいただきたいと思います。「歌舞伎ってこんなに笑ってみられるんだ!」そんな風に出来上がればいいなと思っています。期待してください。


中村勘三郎
 2年前、初めての赤坂大歌舞伎では、皆さんが街ぐるみで応援してくれて、一つのものを作るというエネルギーを強く感じることができました。今回は『人情噺文七元結』の上演です。赤坂では歌舞伎を初めて観る方がとても多いと思いますが、山田監督の補綴でこの作品は今までとは違う『人情噺文七元結』になっています。監督の言われるとおりに演じた舞台を「シネマ歌舞伎」で自分が席に座って見たら、大笑いしてしまいました。自分の芝居で笑ったのは初めてです。今回はさらに良い作品に仕上がると思うので期待していただきたいと思っています。

 この芝居は曾祖父の五代目尾上菊五郎が初演したのですが、その台本を見ると非常に細かい所まで描いています。今までの演出では舞台の長屋も綺麗ですが、今回は本当に汚くしてもらっているので、生活感のある、初演に近いものになっていると思います。無精髭を生やしたり、少し生えたままの月代(さかやき)にしたり・・・それが初演の時の志だったのだと思います。初演の頃の心を今に繋いでいきたいと思っていますし、それを日本の映画監督の巨匠と一緒に創り上げることができて、きっと曾祖父も喜んでいると思っています。

 赤坂ACTシアターでは、歌舞伎以外の演劇との勝負になります。異種格闘技ではありませんが、そういう劇場で歌舞伎を上演するのは、新鮮でとても良いものです。そうした劇場でやる良さを創りたいと思っていますし、今回はさらに今を生きている日本の巨匠が磨きを掛けてくれています。いつも来慣れている赤坂、大好きな食べ物屋さんもとても多い街ですが、その赤坂が一ヶ月間、特別な赤坂になります。ぜひ期待していただきたいと思っています。

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勘三郎「赤坂大歌舞伎」での意気込みを語りました

2010/06/16