猿之助が語る『空ヲ刻ム者』

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 3月5日(水)、新橋演舞場公演から始まる「スーパー歌舞伎II(セカンド)『空ヲ刻ム者 ―若き仏師の物語―』」。市川猿之助が作品について、稽古の様子について語りました。

 「瞬時に決断を下さないといけないことが毎日、百個くらいあるんですよ。もう大変!」と言葉にしながらも、楽しそうな笑顔を見せた猿之助。スーパー歌舞伎を現代に合わせたセカンドとして新たに生み出すには、「衣裳、鬘、化粧、明日の稽古時間まで、すべて自分が決めないと始まらない」そうですが、だからこそでき上がる"猿之助ワールド"。歌舞伎での蓄積だけでなく、これまで見聞きしたものを総動員しての決断が続きます。

歌舞伎にする、現代語を残す
 作・演出の前川知大の話を聞き、「では、ここでツケを打って、合方を入れて、こう動いて...」と、"歌舞伎ではこうする"を具体化していくのが猿之助。「歌舞伎では引っ込むときに七三(しちさん:花道の舞台よりの定位置)で一度スローダウンしてくださいとか、対話するときは真横を向かないでこの辺りを見てくださいとか言っています」。結果、「3分と椅子に座っていられない」忙しさで稽古場を動き回っているのだとか。

 しかし、「(一馬役の佐々木)蔵之介さんに、演技を歌舞伎風にしてくださいとは一切言っていません。せりふのしゃべり方の違いがキャラクターの違いになるから、演出家から見るとよりわかりやすいようです。十和(猿之助)と一馬の二人の場面は現代劇を見るような新鮮さがあり、そこに歌舞伎俳優が入ってくると、ポンと歌舞伎になる。それが面白い」と、大いに手応えを感じているようでした。

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音楽、せりふ、音へのこだわり
 「歌舞伎は音楽劇なので、音の制約のなかで芝居をしないといけない。せりふも音楽だから、音楽を聞いてからしゃべってください」「長ぜりふでも動かず朗々としゃべり、重要なときだけ動くのでそこに意味が生まれるんです」等々、歌舞伎と現代劇のギャップを埋める作業は続きますが、「それぞれがスタンスを変えず、同化ではなく自立したもの同士が手を組むことで、新たなものが生まれる気がします」と語る様子は、両者のさじ加減に心を最大に砕いているようにも見えました。

 その一つの例が浅野和之の演じる巫女、鳴子。「歌舞伎の格好で現代語を話しても違和感がない。それは僕ら歌舞伎俳優にはできないこと。浅野さんは現代劇と歌舞伎を行き来するのにまったく違和感がない」と、新たな発見に驚きと喜びを表しました。「一方、蔵之介さんは現代劇のしゃべり方だけど、歌舞伎のテンポを速くしているだけなので、ちゃんと下座音楽に乗っている」。稽古場での発見の数々は芝居づくりの原動力になっているようです。

十和と一馬は表と裏
 幼馴染の十和と一馬は、一人の人間の二方向を表していると言います。見た目にもわかりやすく十和は青、一馬は赤の衣裳を身に着け、最後はその二人の大立廻りがあって、十和と一馬が前後に行き来できるよう別々のレールで宙乗り。馬に乗った男女の宙乗りはあっても、立役二人でこの形は「スーパー歌舞伎初」です。

 「十和という名前は"永遠"につながるのかな。きっと何かあるんだと思います」。自身が勤めるこの十和については、「悩める青年で芝居のしどころが少ないので、"スーパー歌舞伎で大事なのは、主人公が演説することですよ、長ぜりふを書いてください"と前川さんに言っています(笑)」。そして外見は「パンクでロックな仏師で荒ぶる魂を表現しようかなと思って、青いエクステンションをつけた髪型にしてみました」。

骨太な脚本
 「成功したら次、やりたいですよ。そのためにはやはり脚本。前川さんの脚本はどこをどう切ろうが言いたいことは変わらない太さがある。そこが素晴らしい」と、脚本の大切さを強調した猿之助。作品のテーマは、打ち出すものではなく、観て感じてもらえるものにしたいとも言います。「だから、『空ヲ刻ム者』にあえてルビを振っていません。"そら""から""くう"...、観た後にああそうか、と思ってもらえれば」。

 物語は仏教が日本に入ってきた時代を想起させ、仏とは神とは何か、信じるとはどういうことか...、さまざまな問いが投げかけられますが、答えを断言するのではなく、演じられる芝居をどう観るか、語られるせりふをどう受け止めるか、主体はあくまでも「自分」。とはいえ、「僕らは笑いを大事にする世代、前川さんも笑いが好き」、お客様に観て楽しんでもらえる舞台づくりに、まだまだ稽古の日々が続きます。

 「スーパー歌舞伎II(セカンド)『空ヲ刻ム者 ―若き仏師の物語―』」の4月5日(土)~20日(日)大阪松竹座公演のチケットは、2月19日(水)より、チケットWeb松竹チケットホン松竹にて販売開始。新橋演舞場公演は3月5日(水)~29日(土)、チケットは好評販売中です。

2014/02/18