月乃助出演「初春新派公演」の舞台から

月乃助出演「初春新派公演」の舞台から

『大つごもり』右より、波乃久里子、市川月乃助


 1月2日(金)より始まった 三越劇場「初春新派公演」花柳章太郎没後五十年追悼では、市川月乃助が『大つごもり』に出演しています。

複雑な男の心根を見せる難役に挑戦
 新年を新派の舞台で迎えるのは3度目となる月乃助、『大つごもり』では資産家、山村家の長男に生まれながらも父親との折り合いが悪く、その後妻とも犬猿の仲という山村石之助を演じています。「(水谷)八重子さんが継母で、思春期に家を飛び出して放蕩三昧、ときどき家に帰るけれど…。でも、ただ単なるアウトローではなく、父親との相性や屈折したところが出せればと思っています」。

 大まかに言うと歌舞伎の色悪なのですが、とことわりつつ月乃助は、「新派ですのでその色、風情のある男にしたい。こういう男がいたんだなあと思っていただければ」と、歌舞伎との違いも意識して役に取り組んでいます。父親と継母から若隠居の話を切り出され、激高する父親に対する石之助は、キレるというのでもなく、怒り心頭に達している様子なのにどこかそこはかとない寂しさを見せます。

共演者との絶妙なアンサンブル
 その石之助の複雑で屈折した心の一端を見せるのが、山村家の下女みね(波乃久里子)との一件です。石之助はみねの絶体絶命の窮地を救うのですが、果たしてそれは侠気を見せたのか、単なる気まぐれなのか、それこそ石之助の本性なのか…。短い芝居の中に脚色の久保田万太郎がそれぞれの登場人物に込めたものを「しっかり翻訳できなかったらどうしようという怖さがあります」と語ったのは水谷でした。

 今回、一世一代でみねを演じるのが波乃久里子。「何度も演じているので、素直な、新鮮なおみねになれるといいなと思います。そのためには本気でやりたい。幸い、ご新造様はいい方です、と心から言えますし、石之助さんはおみねにとっては王子様みたいな存在ですが、月乃助さんは黙っていても王子様。役づくりは皆さんがやってくださるので楽です」と、共演者との芝居に大きな信頼を寄せています。

 
月乃助出演「初春新派公演」の舞台から

▲ 当月の三越劇場ロビー

花柳章太郎が遺したもの
 花柳章太郎の最後の舞台となった『大つごもり』『寒菊寒牡丹』を花柳の没後五十年を記念して上演する今回の公演。新派の衣裳のデザイン家としてもこれ以上の方はいないと、花柳章太郎を称えた水谷は、「美的感覚、舞台に対する衣裳の効果、色の使い方…。もっともっと皆さんに知っていただきたい」と熱く語りました。

 さらに、花柳が考案した端切れをつくろったみねの衣裳、『寒菊寒牡丹』の妻吉の衣裳などに注目すると同時に、「帯は母(初代水谷八重子)の紋をあしらっています。歌舞伎と同じで役者紋を舞台装置などにも使っていますので、ぜひ見つけてください」と、新派の舞台を観る楽しみについても話しました。

 初代八重子の弟子だった波乃は、「八重ちゃんをマリア様と呼ぶなら、僕はお釈迦様だ」と言った花柳を「素敵な、チャーミングな方だった」と振り返ります。舞台上で「若竹や すいと伸びたら 笛にしよ」と花柳から句をもらい、「どんな音色になるかということなんですが、薪にくべられないようにしようと思いました」と、故人のエピソードも披露しました。

 「忘れてしまった日本の生活を、新派の芝居の中に見出していただきたい」と語ったのは水谷。日本の正月にあらためて観る新派の舞台は、日本らしさを感じさせるもの、音、言葉であふれています。ぜひ、劇場へ足をお運びください。

 三越劇場「初春新派公演」花柳章太郎没後五十年追悼『大つごもり』『寒菊寒牡丹』は、26日(月)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹チケットホン松竹三越劇場チケットショップほかにて販売中です。

2015/01/05