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『あらしのよるに』『ワンピース』が大谷竹次郎賞受賞

『あらしのよるに』『ワンピース』が大谷竹次郎賞受賞

 前列左より、市川猿之助、横内謙介、大谷信義松竹株式会社会長、今井豊茂、中村獅童

 

 

 1月25日(月)、第44回平成27年度大谷竹次郎賞の授賞式で、『あらしのよるに』の今井豊茂氏と、スーパー歌舞伎II(セカンド)『ワンピース』の横内謙介氏、それぞれの脚本を担当した両氏に賞が贈呈され、出演者の中村獅童、市川猿之助が祝福に駆けつけました。

 新作歌舞伎の優秀脚本を表彰する大谷竹次郎賞。新作が多かった今回の選考では、5本の候補作から、「どちらも外せない同率首位」(大谷信義松竹株式会社会長)として、9月に京都四條南座で上演された『あらしのよるに』と、10月・11月に新橋演舞場で初演されたスーパー歌舞伎II(セカンド)『ワンピース』が選出されました。

『あらしのよるに』『ワンピース』が大谷竹次郎賞受賞 『あらしのよるに』については、選考委員の水落潔氏から、「歌舞伎という濃度の高い、演劇的に複雑な作品として上演するには、あまりにも原作がシンプル。それを、原作のエッセンスを活かしながら、お家騒動や説話的趣向など、古典歌舞伎的な要素を取り入れ、義太夫や下座音楽を用いて歌舞伎として構成し、さらに、主役二人の芸風を活かすことも考慮に入れていた。大きな成果を上げ、初めて歌舞伎に触れる観客がとても喜んでいたところも、評価の対象になりました」と、選考経過報告がありました。

 

 今井氏は、姿の見えないおおかみとやぎの出会いから始まる物語、「どうしたらいいのかなと思っていたところ、獅童さんに『四の切』みたいな芝居にしたいと言われました。一つの骨格をつくることになった大きなアドバイスでした。また、演出の藤間勘十郎さんの力なくしては、この作品はできなかったでしょう。俳優、スタッフに恵まれ、助けてもらって栄えある賞をいただきました」と、感謝しました。

 

『あらしのよるに』『ワンピース』が大谷竹次郎賞受賞 がぶ役を演じた獅童は、幕が開くまでは新作歌舞伎ならではの不安があったと明かしましたが、「学生さんの貸切公演で、本当に笑って泣いて喜んでくれて、古典歌舞伎をご覧になる京都のお客様も、面白いと言ってくださった。絵本が題材でも子ども向けという気持ちでやってはいけない、普段の古典歌舞伎と同じ気持ちでさせていただきました」と振り返り、受賞を祝福しました。

 

 『ワンピース』の選出は、「発想の面白さ、普通の俳優では表現できないような登場人物の表現。スーパー歌舞伎にはなかった映像の使い方で見せ、多くの俳優に何役も演じさせて俳優の魅力を発揮させた。そうして、エンタテインメントとして非常に面白い舞台をつくったところが評価されました。作品ありきではなく、舞台を立ち上げるまでの試行錯誤が、見事に結晶されていい舞台になったのだと思います」と、水落氏から報告されました。

 

 横内氏は初めに、尾田栄一郎氏の原作を「先生が一生かけて書かれる大叙事詩」と讃えたうえで、「今回の物語の素晴しさの半分は尾田先生。脚本を書いてから稽古が始まるまでは四代目(猿之助)がブラッシュアップしてくれ、稽古が始まってからはキャラクターを熟知している俳優ほか、大勢の方たちに助けてもらって、あのような複雑な舞台機構で成功することができました。この賞はチームでいただいたものと思っております」と、作品をつくり上げてきた全員に感謝を捧げました。

 

 猿之助はお客様が入ってくださって“いい芝居”になったことがうれしいと話し、「もう一つうれしいのは若手の活躍で、巳之助くんと隼人くんがその後の浅草歌舞伎でも活躍していることです。浅草歌舞伎といえば、自分が獅童さんと出演していた頃に、“できたらいいな”と二人で話していたことが現実となった、そのことに感謝しています」。これには獅童もうなずき、「それぞれに新しい舞台をつくらせていただいて、二人でこの場にいることが本当に感慨深い」と、同時受賞に特別な思いを寄せていました。

 

『あらしのよるに』『ワンピース』が大谷竹次郎賞受賞『あらしのよるに』『ワンピース』が大谷竹次郎賞受賞

  

 今回の2作同時受賞は、「制作過程から作者、演出家、俳優が協力し、いかにいい舞台をつくり上げていくかを試みる時代に入ってきた」(水落氏)ことを印象付ける一方、「『あらしのよるに』は一つのテーマを技法を駆使して歌舞伎に見せ、『ワンピース』は選びとった複数の要素を統一的な作品に仕上げていた」(古井戸秀夫氏)と、真反対の性質の作品がともに高い評価を得たことも大きな特徴でした。

 

 「再演を繰り返し、さらに磨きをかけて欲しい。いつまでも、進歩した姿、成長した姿、変化した姿を見続けていきたいと思わせる作品に」(平岩弓枝氏)と、最後に、本賞の創設意図の一つである再演に向けての期待の言葉を得て、授賞式は終了しました。スーパー歌舞伎II(セカンド)『ワンピース』は3月大阪松竹座4月博多座での再演が決定しています。 

2016/01/27