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吉右衛門が語る「秀山祭九月大歌舞伎」

吉右衛門が語る「秀山祭九月大歌舞伎」

 

 

 9月1日(金)から始まる歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」について、中村吉右衛門が出演演目と秀山祭への思いを語りました。

 初代吉右衛門を顕彰し、芸を継承していくために始まった秀山祭も今年で10回目。5演目のうち4つが秀山祭初登場という、区切りの年にふさわしい意欲的な演目立てです。「『毛谷村』は初代が当てた芝居。『忠臣蔵 八段目』道行では、藤十郎の兄さんに華を添えていただいております」。『忠臣蔵』は初代が率いた吉右衛門劇団でたびたび通し上演されてきた、ゆかりの演目です。吉右衛門は『極付幡随長兵衛』の幡随院長兵衛、『ひらかな盛衰記 逆櫓』の松右衛門実は樋口次郎兼光を勤めます。

 

吉右衛門が語る「秀山祭九月大歌舞伎」

『極付幡随長兵衛』で極付の長兵衛に

 「九代目(團十郎)亡きあと、初代がやり続け、今に伝わる黙阿弥物。実父の(初世)白鸚が教えてくれました」。昭和28(1953)年9月歌舞伎座、「亡くなる少し前に、初代の長兵衛で長松をやらせてもらえた、思い出深い芝居です。初代はお客様の気持ちをがっとつかみ、長兵衛として登場します。その後、実父の白鸚がやっており、その貫録を見て、これはできないなと思っていましたが、なんとかやらせていただけるようになっております」。

 

 黙阿弥の名ぜりふが散りばめられていますが、特に、「湯殿に行ってからの水野に対しての啖呵。歌い上げるように言う啖呵が、お客様の心に響くものになっております。その前に、長松に対してそれとなく遺言を伝えるようなせりふ、ここがまた難しいところです」。初代の口跡が白鸚を通して当代に伝わっています。「自分の長兵衛が“極付”になれたらいいな。それが希望であり努力の目標です」。

 

吉右衛門が語る「秀山祭九月大歌舞伎」

初代の工夫を伝える『ひらかな盛衰記 逆櫓』

 昭和23(1948)年6月東京劇場、吉右衛門が『俎板長兵衛』の長松とともに初舞台を踏んだのが、この『逆櫓』の槌松でした。「初代の樋口が、血だらけの顔で、『若様』、という思いで槌松をぐっと見る。それが怖かったんでしょう。化粧をし始めると泣き出してしまい、初舞台をやめさせられました。前代未聞。よくここまでやってこられたなあと思います」と、笑い飛ばした吉右衛門。初代の当り役のなかでも特に名が上がる松右衛門は、白鸚を通じて当代に受け継がれています。

 

 「漁師に化けて漁師の家に乗り込み、逆櫓をネタに義経を船に乗せて敵を討とうという、奇想天外な筋をよく思いつかれたなと思います」。漁師の松右衛門と侍の樋口、「世話と時代の使い分け、これはもう初代は素晴らしかったんだろうと思います。初代は江戸っ子ながら上方の血も入って(父の三世歌六は上方出身)、その雰囲気が心地よくお客様に受けたのではないでしょうか。江戸時代の香りを醸し出していたんじゃないかなと思います」。歌舞伎芝居は成熟した江戸文化、その雰囲気を今に伝えるのが伝統歌舞伎、「江戸にいるんじゃないかと錯覚させられたら成功」と、意気込みを見せました。

 

金丸座で江戸の香りをまとい、歌舞伎座に伝える

 吉右衛門が松貫四として書いた『再桜遇清水(さいかいざくらみそめのきよみず)』は、旧金毘羅大芝居(金丸座)が国の重要文化財の指定を受け、「金丸座から発信する芝居をと急遽いわれ、せっぱ詰まって自分で書きました。金丸座の機構図を見ながらつくり上げました。そのときは無我夢中。私は詞が苦手で勉強不足なものですから、せりふを書いたりするのが難しかったですね」。松貫四の名は、初代からその娘である当代の実母に預けられ、当代に譲られました。「ハンコもございます。私の俳名にもいたしました」。

 

 こんぴら歌舞伎の第一回(昭和60年6月)では、吉右衛門が早替りで清玄と浪平を、20周年(平成16年4月)の上演では清玄を勤めました。今回、「染五郎くんは得手なので」、再び2役早替りで見せます。「ただ早替りを見せるのではなく、清玄の破戒していく過程の人間的な苦悩、憐みがお客様の心に響くように、また、浪平の忠義第一の人間像も演じてもらいたい」と、染五郎に期待を寄せます。

 

 舞台の大きさも機構もまったく異なる歌舞伎座での上演にあたり、「道具帳も考え、早替りの移動の仕方を工夫したり、つなぎのせりふを増やしたり、なんとか台本にいたしました。新作といえど、金丸座という江戸の芝居小屋の空間でつくったものならば、歌舞伎座でやっても江戸の香りが伝わる芝居ができるのではないか。どれだけ江戸の香りが伝わるかを眼目に、監修に当たりたいと思います」。

 

秀山祭を通して継承していくもの

 初代吉右衛門の当り役は、「いろんな方を見て、初代が自分の考えを入れてつくり上げた型でございます。なるほど、初代のやり方、いいじゃないかと思っていただくことが秀山祭の目的。命を賭けてやってきて、天職、天命だと思っております」。その姿を追うように、若手が吉右衛門に教えを乞い、芸を受け継ごうとしています。「役の心をお客様に伝え、感動させるのは至難の業。気持ちでやれといっても、ただ気持ちだけでやればいいとなっても困りますし…。教えるのは大変、自分でやるほうが数倍楽です」。

 

 「稽古、修業を一所懸命やり、人の芝居を見て先人の教えを教わり、いろんな芝居に出る。我々(歌舞伎)の芝居のつくり方は、主役のやり方を見て自分の引き出しから主役に合わせたやり方をするもの。芝居を見ていない人では立ち位置もわかりませんからね」。秀山祭を通して吉右衛門は、舞台の上でもそして舞台の外でも、計り知れないものを残そうとしています。 

 歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」は9月1日(金)から25日(月)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹チケットWeb松竹スマートフォンサイトチケットホン松竹で販売中です。 

2017/08/12