ニュース

菊五郎、菊之助が語る『マハーバーラタ戦記』

菊五郎、菊之助が語る『マハーバーラタ戦記』

 『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』 左より、青木豪(脚本)、宮城聰(演出)、尾上菊之助、尾上菊五郎。中央は菊之助がインドで撮影した迦楼奈(カルナ)役スチール写真

 

 

 10月1日(日)、歌舞伎座「芸術祭十月大歌舞伎」で上演される新作歌舞伎、『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』に出演の尾上菊五郎、尾上菊之助が、演出の宮城聰、脚本の青木豪とともに公演への思いを語りました。

菊五郎、菊之助が語る『マハーバーラタ戦記』

世界三大叙事詩の一つ「マハーバーラタ」を初めて歌舞伎に

 「菊五郎劇団には新しいものに挑戦する伝統がございます。わくわくしながら芝居づくりをしていきたい。これが歌舞伎だと思っていただける作品に」と、目を輝かせたのは菊五郎。『NINAGAWA 十二夜』以来、「12年ぶりに歌舞伎座で新作をつくらせていただくことに、本当に気合が入っております」と、菊之助も力強く語りました。

 

菊五郎、菊之助が語る『マハーバーラタ戦記』

 3年前、宮城聰の舞台『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』を見た菊之助が、「歌舞伎にできるのではないかと思い、宮城さんに相談させていただいたのがスタート」。しかし、そのまま歌舞伎にするのではなく、長い「マハーバーラタ」のなかの見せ場を選び出し、「間には所作事も義太夫も入ってまいります。歌舞伎のエッセンスと『マハーバーラタ』のエッセンスがぎゅっと凝縮したものを」、目指しています。

 

現代演劇の演出家と歌舞伎の相乗効果

菊五郎、菊之助が語る『マハーバーラタ戦記』

 宮城は、「何百年もの蓄積を持った演劇、歌舞伎が、最前線で活動していることが、日本で演出していてとても恵まれていることだと思う」と語りました。「歌舞伎の蓄積、智恵というものをずいぶん使わせていただいて、助かっています」。今回は初めての歌舞伎の演出ですが、「僕が考え、発見したことや何かが、歌舞伎を演出することで、もしかしたら100年後に残り、未来の演劇人がそれを参考にしてくれるかもしれないと思うと、夢が持てます」。

 

 菊五郎は現代劇の演出家との稽古が楽しみと言います。「お互いの共通点、探し求めるものをつかみ、舞台で演じる。今の演出家の方が何を考えているのか、それが歌舞伎とドッキングしたら何か面白いものができるのではないか」と、期待をふくらませました。菊之助も、「普段、常識的にしていること、所作や型が、今回の新作にどのように生かせるか」、歌舞伎と現代劇の立場で互いに「稽古場で問いかけながらつくっていくつもり」と明かしました。

 

 そのなかで、「これが“美”なんだ、というものを提示すれば、必ず共通の理解に至るだろうと考えています」というのは宮城。“美”の普遍性を挙げ、信じていると語りました。「奈良時代くらいに、インドから入ってきたものを見て、日本人がその向こうにどんな人間、風景を想像し、どんな形象、デザインをしたかが発想の基本です。そして、古代のインドの世界観、思想のなかでつくられた物語なので、後の時代に入ってきて今ではインド風と思われているものを、うかつに取り入れないようにしています」。

 

菊五郎、菊之助が語る『マハーバーラタ戦記』

カルナを中心に据えて壮大な物語を見渡す

 世界最長の書物を、歌舞伎として上演できる脚本にするのは青木豪。「本当に話が大きくて、ちょっと想像できないようなことがたくさん起こります。格闘しながら書かせていただきました。非常に壮大な話になると思います」。そのための手法として青木が選んだのが、「カルナの目線で書くこと」。

 

 「カウラヴァには100人、パンダヴァには5人の王子がいますが、カルナはちょっと外れたところにいる。両王家の戦の中に脇から入る存在なので、主軸を観察できるし、中に入ることもできるんです」。さらに、菊之助が続けて、「カルナは、太陽神から戦を止めなければいけないという使命を預かっています。さながら、“一枝を伐らば一指を剪るべし”という使命を持った『熊谷陣屋』の熊谷直実のようなことかなと思いました」。

 

 せりふは、「神様、王族、庶民と出てくるので、神様は硬い言葉にするにしても、なるべく一度聞いただけでわかる言葉を混ぜたり」(菊之助)するなど、話し合いながら練り上げてきたそうです。菊五郎は「面白くなりそうですよ」と、手応えを感じている様子。「ただ、(登場人物の)名前を覚えるのが大変」との本音も飛び出しました。

 「古典にのっとった形で、古典歌舞伎をつくる。もっとインドを身近に感じていただける作品に」。菊之助の気迫のこもった言葉に、演出の宮城も「歌舞伎の蓄積と、最先端の演劇。この両方が、10月の歌舞伎座に実現するのではないか。期待していただければ」と、自信を見せました。「ものすごくきれいなものを観に、歌舞伎座へお越しください」と青木が締めくくり、会見が終了しました。

 

 歌舞伎座「芸術祭十月大歌舞伎」は、10月1日(日)から25日(水)までの上演。チケットは、チケットWeb松竹チケットWeb松竹スマートフォンサイトチケットホン松竹で、9月12日(火)発売予定です。

 

菊五郎、菊之助が語る『マハーバーラタ戦記』

 『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』 左より、青木豪(脚本)、宮城聰(演出)、尾上菊之助、尾上菊五郎、安孫子正松竹株式会社副社長

2017/08/31