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尾上右近 自主公演「第五回 研の會」が開催されました

尾上右近 自主公演「第五回 研の會」が開催されました

 『弁天娘女男白浪』尾上右近

 8月28日(水)・29日(木)に京都芸術劇場春秋座で、9月1日(日)・2日(月)に国立劇場小劇場で、尾上右近 自主公演「第五回 研の會」が開催されました。

 平成27(2015)年から始まった「研の會」も5回目を迎え、今年は節目の年として、「研の會」では初めての2都市での開催となりました。今回は、『弁天娘女男白浪』と猿翁十種の内『酔奴』を上演。右近が深いルーツを感じているという『弁天娘女男白浪』は、音羽屋が大切にする作品の一つ。尾上菊五郎監修のもと、右近が弁天小僧菊之助を初役で勤めました。猿翁十種の内『酔奴』は、歌舞伎の舞台では当代市川猿翁が平成11(1999)年に踊って以来の上演。市川猿之助の賛同を得て、こちらも初めての挑戦となりました。今回は文楽座の豊竹呂勢太夫、鶴澤藤蔵、鶴澤清志郎が特別出演し、右近の自主公演を盛り上げました。

 

 右近の弁天小僧と坂東彦三郎の南郷力丸がともに花道から登場すると、客席からは大きな拍手が沸き起こりました。すっかり武家の娘らしく見える弁天小僧。しかし、実は男で、しかも盗賊の一味。額の傷を抑えながら伏せているところを男だとばらされ、笑みを浮かべながらみるみる目の色と表情を変える様子に、弁天小僧の魅力を存分に感じさせました。本来の姿を現した後の、南郷とのせりふのかけ合いやあぐらをかいて煙管をふかす仕草など、先ほどまでのお嬢様らしさとのギャップを小気味よく演じた右近。「知らざあ言って聞かせやしょう」と馴染みの弁天小僧のせりふに、客席からは「音羽屋!」と力強いかけ声がかかりました。稲瀬川勢揃いの場では、白浪五人男がそろいの紫の地に、役に合わせた絵柄があしらわれた小袖で一列に並び、圧巻の光景。役ごとに異なるせりふや立廻り、見得を見せ、最後は美しく絵面で決まり、幕となりました。

 

尾上右近 自主公演「第五回 研の會」が開催されました
 

 『弁天娘女男白浪』左より、坂東彦三郎、中村梅丸、市川九團次、尾上右近、市川團蔵

 

 

尾上右近 自主公演「第五回 研の會」が開催されました

 猿翁十種の内『酔奴』尾上右近

 雪の降る夜、酒徳利をぶらさげ、酔いのまわった千鳥足で花道から登場した右近演じる可内(べくない)。前半は、機嫌よくお国自慢を始めたかと思えば、竹馬を牛に見立てて踊りはじめ、しまいには三味線のリズムに合わせてリズミカルに竹馬を披露。後半では、怒り上戸、笑い上戸、泣き上戸の三人上戸を演じ分け、さまざまな表情と可笑しみのある仕草で客席が笑いに包まれました。清元としても活躍する右近らしく、浄瑠璃と息の合った所作事を見せ、芝居味たっぷりに演じました。上機嫌の可内が酒を飲み干してしまうと、次第に寒さが身に染みてきます。そばにあったむしろをかぶって寒さをしのぎますが、酔っている可内は大八車の上に倒れこみ、木から落ちてきた雪を見上げてそのまま眠り込んでしまうのでした。最後は、雰囲気が打って変わって胡弓の音とともに物淋しい冬の雪夜の幕切れとなりました。

 

 カーテンコールでは温かい拍手のもと迎えられた右近が、お客様、共演者一同、そして公演に関わるすべての方への感謝を述べ、一層の精進を誓いました。大きな挑戦となった今回の「研の會」。威勢のいい弁天小僧と愛嬌のある可内の2役、どちらも初役ながら果敢に挑んだ右近に、客席からは最後まで惜しみない拍手が送られました。来年は残念ながら開催されないことが発表されましたが、再来年、どんな作品で魅了してくれるのか、今から期待がふくらみます。

 

 

尾上右近 自主公演「第五回 研の會」が開催されました

 猿翁十種の内『酔奴』尾上右近

2019/09/09