海外公演レポート



「パリと歌舞伎とオペラ座と」第3回

もうひとつのオペラ座で

 パリ公演では「口上」も大きな話題となりました。團十郎さんをはじめ「口上」に列座した役者さん全員がフランス語にチャレンジし、最後には市川家に伝わる「にらみ」も團十郎さんによって披露されたのです。

 流暢なフランス語で周囲を感心させたのが亀治郎さんで、休演日に行われたレクチャーでもその語学力は生かされました。レクチャー会場は1990年に新しくオープンした新オペラ座「オペラ・バスティーユ」にある円形劇場。出演者は亀治郎さんと振付師で舞踊家の藤間勘十郎さん、そしてオペラ座バレエ団のエトワールであるニコラ・ル・リッシュさんです。

 ステージに登場した亀治郎さんはフランス語の挨拶で場内を和ませると、次は日本語で「歌舞伎のエッセンス」についての説明を開始。歌舞伎の演技様式や表現方法の一例、女方についてなどを、わかりやすい(つまり訳しやすい)言葉で簡潔に語り、観客の興味を惹きつけます。

 そして勘十郎さんによる日本舞踊についての解説、亀治郎さんによる実演の後、ル・リッシュさんの登場となりました。ガルニエで上演された『紅葉狩』の中から更科姫の振りの一部にル・リッシュさんがチャレンジするというのです。身体の重心の置き方も手足の使い方もまったく異なる動きに、ル・リッシュさんは戸惑い気味の様子。ですが、勘十郎さんがポイントを絞って具体的にアドバイスすると、柔軟な心身がそれを的確にキャッチしていきます。

 ル・リッシュさんはオペラ座バレエで最高位のダンサーを意味するエトワールの中でもトップクラスのダンサー。私たち日本人はその身体表現能力の豊かさに驚嘆し、フランスの皆さんはル・リッシュさんが苦戦する姿にふたつの舞踊の表現の違いや難しさを実感していたようです。

 ル・リッシュさんは、レクチャー終了後に「いろんな動きがすごくシンプル、なのに非常につくりこまれている。そして根本にあるものがたいへん力強く表現されている」と、日本舞踊を土台とする歌舞伎の身体表現に対する感想を語ってくれました。

 更科姫が実は戸隠山の鬼女であるという設定にも感じるところがあったようで「自分はロマン派のバレエの中で幻想的な表現が好きで、(その作品世界では)たとえば人間がこの地上の生物でないものに変わってしまうこともできる。それと同じくらいの衝撃が歌舞伎からも感じられました」と、言葉を続けました。
 
 パリではガルニエでの上演の他、このような日仏文化交流のイベントも行われていたのです。次回は團十郎さん海老蔵さん親子が出席して行われた映画上演会についてお伝えします。

 尚、パリ滞在中の亀治郎さんについては歌舞伎チャンネルの番組『亀治郎の超まじKAME!』でさまざまな素顔を垣間見ることができます。

清水まり(フリーランスライター)