「パリと歌舞伎とオペラ座と」第4回

映画とトークで成田屋三昧 

 團十郎さん、海老蔵さんが揃って出席した映画上映会とトークイベントが行われたのは、休演日の3月26日、パリ東部のベルシー地区にあるシネマテーク・フランセーズでのことでした。シネマテークは映画の上映のほか貴重なフィルムの保存や関連資料の展示などを行っているフランス映画の聖地、そこで九代目團十郎が更科姫を演じた『紅葉狩』と六代目菊五郎の『鏡獅子』が上映されたのです。

 会場ではまず、当代に至るまでの市川家の歴史や芸についてまとめた短いドキュメンタリーを上映。そこには幼い日の海老蔵さんの姿も映し出されています。そして歌舞伎ファンにはお馴染みの前述の作品が上映され、團十郎さん、海老蔵さんが観客からの質問に答える形で進行していきました。

 通訳された質問を受けて、團十郎さんがまず答えていたのは歌舞伎の化粧や音楽、立役と女方についてなどでした。いつしか話題は、歌舞伎の将来や世界無形遺産に登録されたことへと及んでいきます。

 次世代の歌舞伎を担う立場として、いつになく饒舌に答えていたのは海老蔵さんでした。
「伝統というものを学びたいですし、きっちり守っていきたい気持はあります。それプラスその時代に生きることがとても重要。たとえば今の時代、スピードは大切。だけど時間のゆるやかさも必要で、時代は流れていて人は常にその中で生きている。九代目團十郎という素晴らしい方がその時代の歌舞伎をつくったように、伝統というものをしっかり吸収してエンタテインメント性のあるものを追求していきたい」。

 世界無形遺産への登録に関しては「奥の深い質問です」と一言おいてから、團十郎さんが慎重に答えます。
「世界無形遺産についての概念は国によって違います。歌舞伎が危機的状況にあるから遺産になったとは思いません。今、歌舞伎は日本で非常に発展しています。我々はそれをさらに発展させていくという気持で、このパリ公演にも臨んでいます」。

 同席していたオペラ座のブリジット・ルフェーブル芸術監督は「歌舞伎は人生のすべてをかけて向上していかなければならない多大な仕事であり、素晴らしい芸術」と、感想を。 

 ここに記したのはほんの一部の内容ですが、こんなふうに歌舞伎を通しての日仏文化交流は、出演者による生のトークや映像という手段によっても行われたのでした。次回は、パリ滞在中に見聞きして印象に残ったいくつかの事象をまとめてお伝えします。

清水まり(フリーランスライター)