歌舞伎でおしゃべり 幕間すずめ



vol.4 歌舞伎って持久戦?

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 長時間の芝居見物。観る方も体力勝負ですが、心強い味方が「かべす」。
 菓子・弁当・寿司の総称で、江戸時代から使われてきた言葉です。芝居茶屋を通して見物する桟敷の客に対し、平土間の一般客を「かべすの客」とも呼び、席につくとお茶に菓子、寿司や弁当が次々と運ばれ、入場料込みになっていました。

 当時は明け六ツ(朝6時ごろ)から暮れ七ツ半(夕5時ごろ)までの一回興行。お客はまる一日を芝居小屋で過ごすため、飲食を楽しみつつ見物する、という歓楽的なスタイルだったのです。

 菓子は饅頭やういろうがメインでしたが、見物で上気した客に特に喜ばれたのが、水菓子と呼ばれる果物。なかでも蜜柑が人気でした。空調や換気が未発達な時代には、天然のペットボトルの役目も果たしていたのかも。古川柳にも「蜜柑の皮の飛ぶとこにいい女」という、マナーの悪いお客をスケッチした句がありますが、それだけ蜜柑はポピュラーな芝居の友でした。

 現代の劇場では、かべすはもちろん、さまざまな食べ物が売店に並び、目移りするほど。アイス最中やアジアンスウィーツなど、江戸の人からは想像もつかなかったようなものも。各小屋に名物がありますが、たとえば歌舞伎座3階の「めでたい焼き」。たい焼きの中に紅白の小さい餅が入ったもので、面白いのはその表記。あんこは「azuki bean jam」、白玉が「rice cakes」と英文の説明つきで、外国の人が見入っている事もしばしば。

 時代とともに様変わりはしても、食べ物は芝居の大きなお楽しみです。

■辻 和子(イラスト・文)
恋するKABUKI フリーイラストレーターとして出版・広告を中心に活動中。
 エキゾチックな味わいが持ち味だが、子供の頃より観続けている歌舞伎の知識を生かした和風の作品も得意とする。
 現在東京新聞土曜夕刊にて、歌舞伎のイラストつきガイド「幕の内外」を連載中。
 著書にファッションチェックつき歌舞伎ガイド「恋するKABUKI」(実業之日本社刊)がある。