vol.6 歌舞伎ってハレの場?

 楽しみな芝居見物、何を着て行こうかと悩むのも、女子の大きなお楽しみ。最近では「着物デー」を組み込んだ公演もありますが、江戸時代の女性の気合いの入り方ときたら、相当なものでした。

 「桟敷の小町 七度も着かへてる」
 これは一日7回(!)も着替える女性を詠んだ句。桟敷の客といえば、茶屋がかりの上客。幕間のたびに、芝居小屋近くの馴染みの茶屋に引き上げ、芸者風になったり御殿女中風になったりと、早替わりのように楽しむ人も大勢いたというから、びっくり。
 芝居小屋は、観客も「見られる」事を意識した、非日常的なハレの空間だったのです。

 現在でも、正月のロビーでの晴れ着姿や、京都南座・顔見世公演の「総見」で、着飾った芸妓舞妓がずらりと桟敷に並ぶ華やかさは、芝居小屋が単なるハコではなく、祝祭性を持った場である事を示しています。

 さて、そろそろ夏も本番。カジュアルなスタイルでも、気楽に観劇できるのが、現代のいいところ。
 ちょっとお洒落に着物ならば、絽や紗といった透け感のある素材や薄手の織の着物に、お太鼓をゆったり結べば、ハレ感もぐんとアップ。芝居の衣装も参考になります。『夏祭浪花鑑』や『伊勢音頭恋寝刃』など、夏ならではの、季節感あふれるセンスを取り入れるのも楽しいかも。
 昔の人にならって、ハレの場での自分を演出してみるのもまた一興。足音を響かせないよう、履物にも気を配るなど、スマートに振る舞えれば、言う事無しです。


■辻 和子(イラスト・文)
恋するKABUKI フリーイラストレーターとして出版・広告を中心に活動中。
 エキゾチックな味わいが持ち味だが、子供の頃より観続けている歌舞伎の知識を生かした和風の作品も得意とする。
 現在東京新聞土曜夕刊にて、歌舞伎のイラストつきガイド「幕の内外」を連載中。
 著書にファッションチェックつき歌舞伎ガイド「恋するKABUKI」(実業之日本社刊)がある。