歌舞伎でおしゃべり 幕間すずめ



vol.7 歌舞伎ってガマン美?

 ガマンにガマンを重ねる姿。歌舞伎はそれを芸術的な表現にまで高めました。そんな「ガマン美」を、いくつかのパターンに分けると...

*パワハラ忍従型
『仮名手本忠臣蔵』・塩冶判官 『鏡山旧錦絵』・尾上
『時今也桔梗旗揚』・武智光秀 
 目上からしつこいパワーハラスメントを受けても、ぎりぎりまで礼儀正しさを保とうと努力。悔しさを残して果てた人も、最終的には腹心の部下によってリベンジが遂げられる(光秀は自力でリベンジ)。

* 戸板返し転換型
『東海道四谷怪談』・お岩
 夫・伊右衛門のドメスティックバイオレンスのみならず、生活苦や末端の住環境、産後の体調不良など、状況のすべてが「責め道具」。ガマンの果てに、夫の裏切りを知り、愛情はがらりと「恨みモード」へ転化。幽霊となり復讐するが、色や欲に満ちたこの世の怖さはそれ以上?

* ふられて錯乱型
『籠釣瓶花街酔醒』・佐野次郎左衛門 『五大力恋緘』・薩摩源五兵衛 
『伊勢音頭恋寝刃』福岡貢  
 人前で、女性から一方的に言いつのられ、ふられてしまう「愛想づかし」は、歌舞伎の重要な見せ場。その結果は、刃傷沙汰に。
 次郎左衛門も源五兵衛も実直な人柄だけに、裏切られたショックも人一倍。当座は呆然としつつも「そりゃあんまり袖なかろうぜ」と耐えているものの、こういう人がキレると怖い。
 一方福岡貢は、キリッとした「ピントコナ」という役柄。恋人・お紺の偽の愛想づかしや、仲居・万野のイジメに、「女を相手に大人げない」と耐える姿には、悲壮美が。

* せめぎ合い究極型
『伽羅先代萩』・政岡
 自分の子供が目の前で殺されても、涙ひとつ見せない烈女。「若君大事」の強い信念と、母性の激しいせめぎ合いが、究極のガマン美を生む。


■辻 和子(イラスト・文)
恋するKABUKI フリーイラストレーターとして出版・広告を中心に活動中。
 エキゾチックな味わいが持ち味だが、子供の頃より観続けている歌舞伎の知識を生かした和風の作品も得意とする。
 現在東京新聞土曜夕刊にて、歌舞伎のイラストつきガイド「幕の内外」を連載中。
 著書にファッションチェックつき歌舞伎ガイド「恋するKABUKI」(実業之日本社刊)がある。