歌舞伎でおしゃべり 幕間すずめ



vol.9 歌舞伎ってこだわり?

 歌舞伎は総合芸術。役者さんの演技はもちろん、音楽、大道具小道具、衣裳やかつらにいたるまで、あらゆるものが「本物志向」。客席から解りにくい細部にも、徹底的にこだわって作られています。
 舞踊の大曲『京鹿子娘道成寺』の衣裳と小道具を例にとってみましょう。

その1 衣裳
 歌舞伎の衣裳は絹と木綿が基本。白拍子花子の衣裳は綸子製で、枝垂れ桜の柄。花の部分は、太い金糸をアップリケ状に固く盛りあげたもの。ボリュームがないと舞台映えがしません。糸はまん中に綿をいれ、金箔をらせん状に巻きつけた特別製。役者さんの体格や好みにあわせ、花の大きさなどを微調整する場合も。衣裳を一瞬にして変える「引抜」に使う糸も、蝋をしみこませてすべりをよくするなどの工夫が。

その2 花笠 
 「花笠踊」の場面で使われる赤い振り出し笠。金のラインが貼られていますが、これはわざわざ古い屏風の金箔をはがして使ったもの。新しい金箔では、金ピカすぎて品がないのです。

その3 中啓
 中啓とは扇の一種。消耗品でもあるので、扇の骨は「冬仕込み」といって、緻密な組織で丈夫な冬の竹を選ぶのが、小道具方の常識。虫がつきにくいという利点も。
 能の「道成寺」は、流派によって扇の柄も異なります。歌舞伎でも同様に、六代目菊五郎は観世流の牡丹の柄を使うなど、役者さんによって違いが。

その4 褐鼓と振り鼓
 胸に装着してたたく羯鼓も、役者さんの紋様入り。金箔製なので、うっかり素手で触ると、そこだけ黒ずんでしまうという繊細なシロモノ。
 和製タンバリンの鈴太鼓は銀箔製で、役者さんによって、中に鈴を何個入れるかがポイント。開口部の大きさで音も変化します。最後の場面で使われるのは、蛇の化身である花子が釣り鐘を見る時、蛇の目に見立ててあるため。

 さまざまな「見えないこだわり」によって、歌舞伎は支えられています。


■辻 和子(イラスト・文)
恋するKABUKI フリーイラストレーターとして出版・広告を中心に活動中。
 エキゾチックな味わいが持ち味だが、子供の頃より観続けている歌舞伎の知識を生かした和風の作品も得意とする。
 現在東京新聞土曜夕刊にて、歌舞伎のイラストつきガイド「幕の内外」を連載中。
 著書にファッションチェックつき歌舞伎ガイド「恋するKABUKI」(実業之日本社刊)がある。