故事からうまれたブランドマーク

『寿曽我対面』 曽我五郎時致 赤縮緬白二引半着付(あかちりめんしろにひきはんきつけ)、薄納戸色龍紋蝶模様長裃(うすなんどいろりゅうもんちょうもようながかみしも)

『寿曽我対面』 曽我十郎祐成 赤縮緬白二引半着付(あかちりめんしろにひきはんきつけ)、薄納戸色龍紋千鳥模様長裃(うすなんどいろりゅうもんちどりもようながかみしも)

 

『矢の根』 曽我五郎時致 黒繻子綿入れ蝶の縫取東絡げ着付(くろじゅすわたいれちょうのぬいとりあずまからげきつけ)

 家紋だけが人をあらわすブランドマークではありません。『祇園祭礼信仰記・金閣寺』に登場する「此下東吉(このしたとうきち)実は真柴久吉(ましばひさよし)」は羽柴秀吉(のちの豊臣秀吉)のことですが、この東吉の衣裳は金色の瓢箪(ひょうたん)を大胆にあしらったもの(トップページ参照)。もちろんこれは、行列の馬印に金の大瓢箪を掲げ、存在を誇示した秀吉ならではの衣裳です。

 “曽我物”というジャンルを築いてしまったほど人気者だった曽我兄弟にも、これを着ていれば曽我十郎と五郎、と特定できる知れ渡った図柄があります。それは、千鳥(十郎)と蝶(五郎)で、これは二人が富士の裾野の巻狩に乗じて、父の敵工藤祐経を狙い陣屋へ討入った際に着ていたのが、
「…十郎が其の夜の衣裳に、白き帷子(かたびら)の腋(わき)ふかくかきたるに、村千鳥の直垂(ひたたれ)の袖を結びて、肩に掛け、(中略)…おなじく五郎が衣裳には、袷(あわせ)の小袖の腋ふかくかきたるを、狩場の用にやしたるらん、唐貲布(からさゆみ)の直垂に、蝶を三二(みつふたつ)所々に書きたるに…」(『曾我物語巻第九・悉達(しつだ)太子の事』岩波書店 日本古典文學大系より)
とあるように、千鳥と蝶であったとされることから、芝居だけでなく絵画においても曽我兄弟といえば千鳥と蝶の模様を描くことが一般化しています。

 衣裳や道具を飾り、目を楽しませるだけでなく、文様は数々の情報を与えてくれます。
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こころを映す、歌舞伎の舞台

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